1 昔をなつかしむ
各旧帝大の生協書籍ランキングで上位になっている「ボーカロイド音楽論」(鮎川ぱて著)を読んでみました。
サブカルチャーを扱った東大教養課程の講義として,私の在学中には,岡田斗司夫氏の「オタク文化論」がありました。
オタク文化論(たしか前身は「UFO研究会」とかいう名前だったみたいです。うろおぼえ)も大変人気のある講義でした。毎回,席に座れずに教室からあふれて廊下からのぞき見ていた記憶があります(ちゃんと聞きたくて,あらかじめ並んで席を確保したこともありました)。
ボーカロイド音楽論も大変な人気講義とのことで,昔を懐かしみつつ,サブカルチャーを扱った最新の東大の講義録を拝見しました。
2 主題はボーカロイド,そして性に関する考察
本を読んで感じたのですが,本書はどちらかというとアカデミックな方向性が強いことです(大学の講義なんだから当たり前っちゃ当たり前)。
デカルトとかデリダとか,(大学の講義で)おなじみの名前が出てきます。日本の民俗学・国語学のスーパースター,折口信夫氏(のぶをじゃないよ,しのぶだよ)も度々触れられます。
一方,そんな有名な研究者・研究内容を知らない人でも何が言いたいのかが分かるようにごく簡単に(ここが重要)解説してくれていて親切です。
そして,著者の研究に通貫しているのは性に関する考察です。
日本の音楽の研究ですので,古来の歌垣的な音楽と性が結びつく文化の系譜に連なるのか。音楽が性的なイメージと結びついていること,一方で機械であるボーカロイドが他のコンテンツよりもpixivなどで性的消費をされていないという指摘は興味深かったです。
3 オタク文化論の思い出
私が20年以上前の記憶を基に適当に書き散らすだけなんですけども,当時私が思っていたオタク文化論のイメージはこんな感じです。
・総花的(アニメだけじゃ無く,マンガもオカルトもサブカル的なものを幅広く扱っていた)
・裏話的(たしか猿まんの竹熊氏がゲストで来たときの伝説の漫画家達のエピソードが面白かった。特にスーパーカーブームを作った有名漫画家が自宅をピロティ式にして一階全部を駐車場にしていたら,ファミレスと勘違いした客が大勢来た話とか)
・評論的(一つの作品を深く探るというより,そのジャンルの全体的傾向をつかむような)
毎回,ドッカンドッカン爆笑が続き,最後にオチまでつけてくれて,楽しいひとときでした。
4 よりピンポイントなサブカル研究へ
ボーカロイド音楽論を読んで,オタク文化論の思い出と比較してみました。
当たり前なんですけども,昔のサブカル研究の講義よりも,より一つのジャンルに特化して,作品ごとに深く考察する内容になっています。
これは,オタク文化論含めて,サブカル研究に関する先人達の努力が実り,世間の認知度が上がったことによって,サブカル的なものの価値を説明する手数を省略できるということかなと。
一方で,裏話的なエピソードはたくさん出てきます(収録されているのはウケ狙いの小話ではないですけど,実際の講義では色んなネタが披露されたのかもしれませんね)。
裏話を楽しむのはサブカル的伝統なのかもしれません。