1 もはや何も言わずに死ぬことはできない
うちは大丈夫。家族はみな本当に仲が良いし,子供たちもお互いが助け合って生きている。自分が死んでも,みんなで話し合って解決できる。
そもそも,うちはお金持ちではない。自宅とあと少しあるだけで,揉める原因がない。
そんな風に思っていませんか?
仲が良いから大丈夫,というのは,「だから自分が遺言などで決めなくても大丈夫」ということの裏返しであり,希望的観測の場合も少なくありません。家族,子供らの仲が良かろうとも,相続時に問題を先送りにする理由にはなりません。
また,不動産の価格は都市部ではまだまだ高額であり,自宅だけでも相当な金額に上ることがあります。さらに,不動産は分割が簡単では無いことも多く,「自宅しか無い」はむしろ揉める原因であることがあります。
相続について何も言い残さずに死んでしまうと,次の世代が相続問題を解決することになり,時間,エネルギーさらには家族の関係性まで犠牲にする可能性があります。
2 遺言はいつでも変えられてしまう
では,相続によって,自分の死後に子の間で紛争が生じてしまうなどの負担を軽減するにはどうすればよいでしょうか。
相続でもめないためには,遺言書の作成をすることが最も一般的です。
しかし,遺言はいつでも書き換えることができ,方式によらず最新のものが有効となります。
そして,遺言書の作成は,遺言をする人単独でできます。
そのため,遺言書を作成しても,これを本人に書き換えさせようとする親族がアプローチし続けることがままあります。結局,死後の争いの前哨戦が行われることになりかねません。
3 家族信託は安定的な契約
家族信託は,少なくとも,委託者の一存で一方的に破棄することはできません。
信託契約は,受託者と受益者が合意すればいつでも解除できます(信託法164条1項)。ただし,その場合は受託者に損害を賠償する必要がありますし,別段の定めをすれば,例えば受託者の合意が必要と定めることも可能です。
つまり,存続の点では,遺言書よりも信託契約の方が強い安定性があるといえます。
一旦,相続のあり方を適切に信託契約で決めてしまえば,相続に関する争いを大部分沈静化させることができるでしょう。
4 ご相談は経験ある弁護士に
信託は,とても柔軟で強力なツールですが,万能ではありません。また,信託の設計,設定は簡単ではありません。そして,税務上の問題は常に考慮しなければなりません。
信託を利用する場合,信託の経験があり,なおかつ家族の抱える悩みに真摯に向き合って,知恵を絞る,そんな専門家である弁護士が求められます。ご自身の悩みが信託で解決できるか分からない,そんな方でもまずはご相談ください。一緒に解決策を考えましょう。
執筆:弁護士 田村裕樹 2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。