建物明渡請求にかかる費用と計算方法

1 必要な手続の概要

賃料の不払いなどで入居者に対して建物明渡請求をする場合,どのような法的手続になるでしょうか。

おおまかに言うと,(1)判決を得るまでの手続と,(2)判決を元に明渡の執行をする手続に分かれます。

  1. 判決を得るまでの手続は,いわゆる裁判です。契約を解除した上で訴状にて建物明渡を請求し,判決を得るまでの手続です。主に地方裁判所において行います。
  2. 判決を元に明渡の執行をする手続は,確定した判決を元にして,執行官に建物明渡の執行を申立て,これを実現するまでの手続です。

2 判決を得るまでにかかる費用

判決を得るまでにかかる費用は,個々の事情によるので一概には言えません。

しかし,概ね必ずかかる費用はあります。

まず,訴状を提出する際にかかる提訴手数料(収入印紙で払うので,印紙代ともいいます)がかかります。印紙代は,その訴訟の訴額によって決まっています(リンク:https://www.courts.go.jp/vc-files/courts/file3/315004.pdf

建物明渡の場合,訴額は対象となる建物の価額によります。

建物の価額の計算方法は,当該建物の固定資産の評価の2分の1です。

建物の一部を賃貸している場合には,建物全体の床面積に占める賃貸部分の床面積の割合によって求めます。

他に,裁判所が送達に使う切手もあらかじめ予納します(予納郵便料)。どこの裁判所なのか,また当事者の数等によって変わってきますが,大体6000円くらいです(もし裁判の途中で足りなくなったら追納します)。

なお,これらの手続を弁護士に依頼した場合は,他に弁護士の報酬がかかります。

3 執行にかかる費用

裁判で判決を得た後,執行する場合には,まず執行官に対する執行費用を納める必要があります。概ね1件につき6万円程度ですが,場所や条件によって変動します。

さらに,実際の明渡の断行をする場合,実際に荷物を搬出し保管する業者の費用がかかりますが,かなり高額です。対象となる建物の広さや荷物の多さ,荷物の状態によって大きく変動するため一概には言えませんが,50万円を超える場合がままあります。

なお,これらの手続を弁護士に依頼した場合は,他に弁護士の報酬がかかります。

4 出て行かせることにかかる費用とは

ここで注意すべきは,建物明渡に至る場合には,費用を入居者から回収できることは極めて困難だということです。通常,賃料は一番先に支払われる債務であり,賃料不払いは経済状態がかなり悪い状態です。

上記のような裁判費用,執行費用をかけることと,一定の和解で早期に立ち退かせることの損得を勘案して,最もよい選択をこころがけましょう。

執筆:弁護士 田村裕樹  2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。

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