分割協議が終わった後に遺言書が出てきたとき

1  遺産分割協議が成立したら

  1. 基本的に,遺産分割協議が成立したら,それを元に遺産分割を行う必要があり,あとから気が変わっても変更できません。
    例外的に,遺産分割の意思に重大な間違いがあった場合(錯誤や詐欺,強迫)には,当初の遺産分割協議が無効あるいは取り消しになる場合もあります。ただし,これはよほど例外的な事情が必要で,簡単には適用されません。こうした主張をしたい場合には,弁護士に相談してよく検討するべきでしょう。

  2. 一方で,全員の同意によって遺言と異なる遺産分割は可能です。
    では,当初全員で合意した遺産分割協議を再度やり直すことは可能でしょうか。全員で合意すれば,基本的には再度遺産分割協議のやり直しをすることができます(最判平成2年9月27日)。

  3. しかしながら,相続税の観点からは注意が必要です。国税庁は,通達(相続税基本通達19の2−8)において「ただし,当初の分割により共同相続人又は包括受遺者に分属した財産を分割のやり直しとして再配分した場合には,その再配分により取得した財産は,同項に規定する分割により取得したものとはならないのであるから留意する。」(昭47直資2-130追加,昭50直資2-257,平6課資2-114改正)としています。つまり,再配分しても遺産分割による相続税ではなく贈与税が課税される可能性があります。

  4. 課税負担の錯誤無効を主張する場合でも,裁判所では基本的に課税関係のやり直しを認めません。極めて限定的な要件を満たす場合にやり直しを認めた希有な裁判例として,東京地判平成21年2月27日判タ1355−123があります。

2 後から遺言書が見つかった場合

遺言書に書かれた内容は,遺留分など法定の権利を除いて,相続において基本的に優先されるべきものです。
一方で,相続人全員の同意によって,遺言書とは異なる遺産分割も可能です。

 では,当初は遺言書が発見されずに全員の同意のうえで遺産分割協議が成立した後になった,遺言書が発見された(協議成立時点では全員遺言書の存在を知らなかった)場合,遺言書と遺産分割協議のどちらが優先されるのでしょうか?

 まず,この遺言書の内容が問題となります。

 その遺言内容が,遺産とそれを取得すべき相続人を具体的に特定して分割方法を指示する場合(帰属指定型,いわゆる「相続させる」遺言が典型例です。)には,遺言と同時に遺産分割の対象外の財産となることから,先の遺産分割協議よりも遺言書が優先されると考えます。

 一方,遺言内容が,現物分割や代償分割などの手段を指示する場合(手段指定型)や分割の指針を示す場合(分割指針型)には,結局は遺産分割協議の結果に任せているのですから,必ずしも後から出てきた遺言書の存在によって先の遺産分割協議が錯誤無効とはならないでしょう。

しかし,遺言書は可能な限り尊重されるべきと考えられていますので,「相続させる」遺言ではないからと言って単純に分割指針型の遺言書だと判断するべきではありません。最判平成5年12月16日では,(完全に帰属指定型ではないが)おおまかに財産と相続人を指定していた事案で,当該事件の事情においては錯誤無効の主張をする(遺言を優先させる)余地があると判断しました。

 なお,相続人の全員が,遺言書の内容を確認してもなお先に行った遺産分割協議の内容で相続を成立させたい場合には,必ずしも遺産分割協議のやり直しは不要と考えられます。

 執筆:弁護士 田村裕樹  2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。

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