このコラムのまとめ
ホステスがいる店に行った費用を接待交際費として計上し、税務署に否認された事案です。
納税者は、毎回ボトルを空けるなど酒を飲む量が一人分では無いから、複数人での利用であって接待であると主張しました。
これに対して裁判所は、ホステスだって飲むんだから、一人で行ってもボトルは空くでしょ、と判断しました。
お客さんと接待で行く店です
現在、新型コロナウィルスの影響で下火ですが、昔からお客さんをもてなす「接待」は営業活動として行われてきました。
ちょっと昭和のイメージですが、いわゆるスナックやクラブなどの夜のお店に行ってもてなすヤツですね。
接待は営業活動ですので、その飲食費は税務上、接待交際費=経費として計上できるはずのものです。
裁判所が接待交際費を認めてくれない!
しかし、税務署はなんでもかんでも接待交際費を認めはしません。
ある会社が、接待交際費を計上して税務申告したところ、税務調査によって個人的な飲食では無いかと指摘された事案がありました(東京地方裁判所令和2年3月26日 平成30年(行ウ)第112号他)。
この事案は、税務署の指摘を認めてすでに修正申告していたり、事案としては複雑な点がありますが、ここでは単純に一つの論点だけで考えてみます。
この酒量は大人数!なら接待でしょ?
この事件は、いわゆるホステスが接待するクラブを利用した料金を接待交際費として計上していたのですが、板橋税務署長(処分行政庁)は,納税者は取引先等を接待した事実がないにもかかわらず,これを交際費として総勘定元帳に記載していたとして、重加算税の各賦課決定処分をしました。
これに対し納税者は,以下のようなおもしろい主張をして,個人の飲食費では無く複数人での飲食であった,すなわち接待だと主張しました。
「Aは,本件各クラブを利用する都度,毎回のようにウイスキーやブランデーのボトルを注文していた。本件各クラブにはボトルキープの制度があるため、新たなボトルを注文するということは,前回注文したボトルを飲み干しているということを意味する。Aが1人で本件各クラブを利用していたのであれば,毎回ボトル1本分という大量のアルコールを摂取していたことになり,その健康を害した蓋然性が高いというべきであるが,現実には健康を害していない。このことは,Aが本件各クラブを複数人で利用していたこと,すなわち接待等の目的で本件各クラブを利用していたことの証左である。」
(東京地方裁判所 令和 2年 3月26日 平成30年(行ウ)第112号他)
要するに、「毎回じゃんじゃんボトルを入れてたけど、こんなの一人では飲めないでしょ。大人数で飲んだってことだから、これは接待だよね?」というなかなかの論理です。
ホステスも飲みますよね?
これに対して,裁判所は以下のように判断し,認めませんでした。
「本件各支出額は,その全てがAの個人的な飲食代金であったと認めるのが相当である(なお,上記のとおり,本件各支出額にはAが複数人でクラブを利用したものも一部含まれているが,その割合はごく僅かなものである上,これら複数人の利用について原告らの事業関係者に対する接待等であると認めるに足りる証拠もなく,上記に認定した事情も考慮すると,本件各支出額の全てにつきAの個人的な飲食代金であったと認めるのが相当である。)。
本件各クラブのような接待飲食店では,客が注文したボトルのウイスキー等をホステスが客の許可を得て飲むことがあり,Aも本人尋問においてそのようなことがあったと認めていることに照らせば,原告らの上記主張はその前提を欠くものである。」
つまり,ボトル全部を一人で飲めば健康を害するけども,そうならなかったのだから複数人で飲んだ,という主張に対して,ホステスにも飲ませるのだから,お客が複数人とはかぎらない,と判断したわけです。
裁判官が、こういうお店のシステムを分かった上で判断したもので,裁判官もそういう経験があったのかなぁなんて思うとなかなか趣深いですね。