このコラムのまとめ
重要事項説明が無いと、特約など契約内容が無効になるのでしょうか。
賃貸借契約の有効性は、主に契約書の内容などによって判断され、仮に重要事項説明が欠けていても、直ちに賃貸借契約の内容が無効にはなりません。
あくまで契約書をチェックする努力が重要です。
重要事項説明って・・・無いとどうなる?
家を借りる時、仲介の不動産屋さんで契約内容の説明を受けますよね。
これは、宅地建物取引士による重要事項説明という手続です(宅建業法35条)。
宅地建物取引士は、一定の事項(宅建業法35条1項各号、ただしこれに限定されない)を契約時に説明する義務があります。
これに違反した場合、宅建業者に対する損害賠償請求などが考えられます。
重要事項説明が欠ければ、賃貸借契約が無効になるの?
一方で、重要事項説明がなければ、不動産の賃貸借契約や売買契約が成立しないのでしょうか。
この点について判断した、東京地方裁判所令和2年9月23日判決を見てみましょう。
この事件は、貸主が退去時のクリーニング特約に基づいて元借主にクリーニング代を請求したところ、元借主が、特約が宅建業者によって説明されていなかったので無効だと主張した事件です。
そもそもクリーニングはしなきゃダメなの?
まず前提として、退去時のクリーニングは、いわゆる通常損耗にあたり、本来は借主が原状回復する義務はありません。
そのため、賃貸借契約において、特約として、借主が退去時のクリーニングをすべきことが定められることが多いです。特約としてきちんと合意されていれば、基本的に有効です。
しかし、本件では、契約が郵送で行われたため、宅建業者による重要事項説明が(特約に限らず全て)行われなかった可能性が高いと裁判所が認定していました。
この場合に、クリーニング特約は有効なのでしょうか。
特約が合意になる条件
この点、特約として有効かどうかは、明確に合意しているかどうかにかかっています。
詳しく言うと、裁判所は以下のように判示しています。
「少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」
(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決・裁判集民事218号1239ページ参照)
そして、裁判所は、以下のように説明して、本件では特約は明確に合意されていると判断しました。
「これを本件についてみるに,本件契約書においては,特約事項として,入居の期間,契約終了理由,貸室の汚損の程度及び汚損の原因の如何にかかわらず,貸室及び附属部分のハウスクリーニング費用(床,壁,天井,建具,水廻り及び設備機器等の清掃費用を含む。),並びにエアコンのクリーニング費用を,原告が全額負担することが明記されている。そして,その算出方法として,ハウスクリーニング費用については,貸室面積35平方メートル未満の場合には一律3万5000円(税別),貸室面積35平方メートル以上の場合には,貸室面積(単位:平方メートル 小数点以下四捨五入)×1000円(税別)となること,エアコンのクリーニング費用については,壁掛けエアコン1台あたり金10000円(税別)となることが,それぞれ明記されており,いずれの算出方法及び額も,一義的かつ明確である。
そうすると,本件においては,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているといえ,その旨の特約が明確に合意されていると認められる。」
(東京地方裁判所令和2年9月23日判決)
まとめると、ハウスクリーニングとエアコンクリーニングについては、その範囲が明確に規定され、賃借人の負担とされていたこと、費用も計算が明確に可能なように規定されており明確であったことを理由として、この契約書に調印した賃借人は明確に特約に合意していたと認定しました。
重要事項説明が無ければ特約は無効?
では、重要事項説明が無かったことが、特約を無効にするでしょうか
裁判所は、重要事項説明が無かったからと言って、直ちに特約の明確な合意が無かったことにはならないと指摘しました。
そして、契約書において、特約が一義的に明確な内容で規定され、わざわざ枠で囲って見やすくしており、郵送でこれを受け取った賃借人は十分な時間をかけてチェックできたはずであるとして、特約は依然として有効であると判断しました。
つまり、重要事項説明が欠けていても、契約内容が直ちに無効にはならない、ということです。
重要事項説明が無いのは言語道断ですが、重要事項説明に頼り切ってはいけません。自分で契約内容を確認する努力が大事ですね。
自分では契約書の内容がよく分からないこともあると思います。その時は、弁護士など法律の専門家に相談してみましょう。
転ばぬ先の杖ですね。