このコラムの要約
令和3年にプロバイダ責任制限法が改正され、①今まで2回の裁判手続が必要だった発信者の情報開示を1回の手続でできるようになりました。また、②該当するか疑義があったSNSへの情報開示が明確に適用可能になりました。
きっかけ
契機は2020年5月23日のプロレスラー木村花氏が死去したことでした。
いわゆるレアリティ番組への出演により、木村氏はSNS上で常軌を逸した誹謗中傷を受けていました。
事件を受けて国会での改正作業が活発化し、2021年2月、プロバイダ責任制限法の改正法が同年4月21日に成立しました。
削除するのに手間が掛かりすぎる!
SNSなどによる誹謗中傷の投稿を消し、発言者に損害賠償請求をするにあたって、今までは以下のような問題がありました。
違法な書き込みがあった場合、これまでは、①まずその書き込みなどを掲載している運営者(コンテンツプロバイダ)にIPアドレスなどの発信者情報開示仮処分を行い、②これを基にして経由した通信会社(アクセスプロバイダ)に契約者の氏名住所等の開示を請求する訴訟をするという、2段階の手間が必要でした。
さらに、最終的には、特定した侵害者に対して損害賠償請求訴訟を提起するという三段階目の手間が必要になります(この点は改正後も変わりません)。
発信者情報開示専用の新たな裁判手続ができた
そこで、改正法では、発信者情報開示命令事件に関する裁判手続という非訟手続を新設しました。
新しい手続は、コンテンツプロバイダへの手続とアクセスプロバイダへの手続を合体して1回の非訟事件で発信者を特定できるのが特徴です。
そもそも、アクセスログなどは3か月から半年で消失してしまうので、1回の手続で素早く終わることも大変重要な点です。
この手続で発せられる命令は、発信者情報開示命令(改正法8条)、提供命令(15条)、消去禁止命令(16条)があります。
ログイン型サービスへの対応
また、プロバイダ責任制限法は、制定当時の主流であった掲示板などを想定していました。
一方、現在はSNSなどのログイン型サービスによる権利侵害投稿が問題になることが多いです。
しかし、ログイン型サービスの発信者情報がプロバイダ責任制限法で対象とされるのか、などに疑義が生じたため、これを解消するよう法改正が行われました。
具体的には、ログイン時情報などを侵害関連通信(5条3項)と定めて、発信者情報の開示請求を認めるようにしました。
また、侵害関連通信に関わる発信者情報を特定発信者情報(5条1項1号ないし3号)と定めて、コンテンツプロバイダにこの開示を求める請求権を認めました。
さらに、アクセスプロバイダに対しても、ログイン時情報の開示請求を認めるため、開示関係役務提供者(5条2項)の範囲を拡大しました。
今後の利用が期待される
これらの改正法は少なくとも2022年以降に施行されます。
1回の手続で迅速に情報開示がされること、SNSなどログイン型サービスに対しても効力を及ぼすことが明確になりました。
新しい手続によって、迅速な削除や損害賠償請求ができるようになって、今後の権利救済に資することが期待されています。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。