1 信託の構造
信託とは,委託者が財産を受託者に預け,所有権は移転するものの,そこから得られる受益権を分離して受益者に与える法律関係のことです。
すなわち,信託には3つの役割(登場人物)があります。
その3つの役割は,委託者・受託者・受益者といいます。
- 委託者
まず,委託者とは,自分の財産から「信託財産」を切り離して,設定した目的に沿って使ったり,売却したりさせる旨の信託を設定する者です。
財産を有していて,これを信託したいと考える人ですから,相続について悩まれているあなた自身が委託者になります。 - 受託者
次に,受託者とは,委託者から信託財産を引き受けて,信託の目的に従って使ったり,売却したりする者です。
受託者は,(形式的に)信託財産の所有者となって,財産を運用する者です。もちろん財産管理の能力が必要になります。 - 受益者
最後に,受益者とは,信託財産から生まれる利益を受ける者です。
財産の運用は受託者がしますので,基本的にそうした仕事をする必要は無く,利益を受ければ良いといえます。一方で,受益者は信託を終了させる権能がありますので,そうした点では受託者に一定のブレーキを掛ける機能があります。
なお,3つの役割について全部違う人である必要はありません。一人二役までは兼任できます。
2 信託の方法
信託は3つの方法で設定できます。
その3つとは,「契約」,「遺言」,「信託宣言」です。
契約による信託設定は,委託者が,受託者との間で,信託契約を締結する方法です。
遺言による信託設定は,遺言書の中で信託の内容を規定する方法です。
信託宣言による信託設定は,公正証書などで,委託者が,自ら受託者となって,信託を宣言する方法です。
3 信託スキーム
(1)受益者は誰か
信託を分類するとき,様々な角度から分けることが可能です。
まず,受益者が誰かという視点から,自益信託と他益信託に分けられます。
自益信託は,信託設定時において,委託者と受益者が同一である信託です。
他益信託は,信託設定時において,委託者と受益者が別人である場合です。一般的は信託のイメージは他益信託だと思いますが,実はあまり利用されていません。これは,信託設定時に受益者に贈与益課税されることが原因の一つでしょう。
なお,受益者の定めのない信託があります。これは,研究目的などの寄付のための信託や人格のないペットのために財産を残すための信託に利用されます。
(2)受託者は誰か
次に,受託者が誰かという視点から,自己信託があります。
通常,委託者と受託者は別人ですが,自己信託は,委託者が自ら受託者となって信託を設定するものです。
(3)その他
このほか,信託事務に関して生じた債務の引き当てとなる財産が信託財産に限定される限定責任信託などがあります。
執筆:弁護士 田村裕樹 2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。