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ADRでも時効をストップ!住宅紛争審査会がさらに便利に!弁護士が解説

このコラムの要約
住宅に関する紛争を解決する手段としてADRである住宅紛争審査会があります。
手軽に利用できるこの制度ですが、令和3年の改正で、①住宅紛争手続でも時効の完成猶予効が付与されます。
また、②対象が拡大され、住宅リフォームやマンションの大規模修繕の瑕疵保険も対象となります。
より選択しやすい制度となったADR、住宅紛争審査会のご利用については、お近くの弁護士会にご相談ください。
住宅トラブルの解決に手軽なADR
建築のミスや代金を巡るトラブルなど、住宅に関する紛争は数多く発生しています。
トラブルを解決するための最終手段は裁判です。しかし、それよりも簡単に、「ちゃんとした人のちゃんとした意見」を聞ければお互い納得できることがありますよね。
そうした要請に応える、裁判では無いけどもトラブルを解決するための手続、ADRが近年充実しています。
各弁護士会が運営している住宅紛争審査会も、住宅紛争を解決する代表的なADRで、比較的活発に利用されている手続です。
消滅時効が止まらない!ADRの問題
以前から、住宅紛争審査会によるあっせんや調停の手続では、消滅時効が問題となっていました。
欠陥住宅による損害も権利である以上、いつかは消滅時効が完成して、請求できなくなってしまいます。
時効の進行を止めるには、訴訟の提起、裁判所に訴えることが必要です。一旦提訴すれば、時効の進行は止まり(民法147条1項)、判決なりで最終的に解決されることになります。
一方、ADRである住宅紛争審査会の手続は裁判と同じような機能を果たすのですが、住宅紛争審査会にあっせんや調停を申し立てても消滅時効の進行は止まりませんでした。
そのため、時効の完成間近の事件では、ADRを利用することができず、はじめから訴訟を選択したり、手続途中に時効がせまってきた場合は別途時効完成猶予の合意を取り付けたりせざるを得ませんでした。
住紛でも消滅時効がストップするように!
こうした不便を解決するため、令和3年5月28日に住宅品確法および住宅瑕疵担保履行法が改正され、住宅紛争手続においても時効をストップする効果(完成猶予効)が発生するようになりました。
具体的には、住宅紛争審査会への手続開始時に時効が完成していなければ、その手続が解決の見込みなしとして不成立におわった後1か月以内に裁判所に提訴すれば、ADRの手続申請時に訴えの提起があったとみなされるため、時効完成後の提訴でも消滅時効に関わらないようになりました(ざっくり書いたので、より詳細な規定は品確法73条の2、保険付き新築住宅に関する住宅瑕疵担保履行法第33条2項を参照)。
この改正の施行日は令和3年9月30日です。すでに係属中の事件にも適用されます(改正法付則第3条、第4条)。
ただし,時効の完成猶予効が生じる範囲について,ADRの目的となった請求内容と,訴訟上の請求が同一なのかどうかで問題が生じることもあるでしょう(請求の特定)。同一なのかどうかは裁判所が事案ごとに判断することになります。
住宅リフォームも対象!
また、今まで対象では無かった住宅リフォーム(瑕疵保険)やマンションの大規模修繕(瑕疵保険)、既存住宅瑕疵保険も対象になりました。
ADRの利用は各瑕疵保険への加入が条件となりますが、いずれも工事発注時に業者に加入を求めることで解消が見込まれます。
住宅紛争処理手続のために4月以内の期間で訴訟手続を中断することが可能に
すでに訴訟で争っている事案でも,当事者双方が共同で申し立てれば,裁判所は訴訟を一時中断して住宅紛争処理手続に委ねることができるようになりました(品確法73条の3)。その期間は4か月以内です。
これによって,既に訴訟になっていても紛争処理手続が使えることになり,より柔軟な解決ができるようになります。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。
物損と人損の複雑な関係!同じ事故でも消滅時効の期間がちがう?弁護士が解説

このコラムのまとめ
交通事故において、人損と物損は消滅時効の起算点や期間が異なります。
最高裁は、物損については、症状固定時からではなく、多くの場合は事故発生時から消滅時効期間が進行すると判断しました。
物損については、人損よりも先に和解や提訴をしなければならない場合があるでしょう。
消滅時効は常に意識しなければならない
交通事故を法律問題として扱うとき、そこにはたくさんの論点があります。
その中でも、実際に大きな影響を及ぼすものに、消滅時効があります。仮に消滅時効期間を過ぎてしまった後では、加害者に時効を援用されたら、被害者は損害賠償請求できません。
ミスした場合の損失が大きいため、消滅時効を意識することはとても重要です。
ところで、交通事故には、身体や生命の損害である「人損」と、車など物の損害である「物損」があります。
消滅時効は、この損害の種類によって異なるのでしょうか。
人損の消滅時効期間
身体の傷害(人損)の消滅時効の開始時期は加害者と損害を知ったときから5年です。条文は以下のようになっています。
(不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条 不法行為による損害賠償の請求権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないとき。
二 不法行為の時から二十年間行使しないとき。
(人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効)
第724条の2 人の生命又は身体を害する不法行為による損害賠償請求権の消滅時効についての前条第一号の規定の適用については、同号中「三年間」とあるのは、「五年間」とする。
改正後の民法によると、724条の2が適用されるわけですね。
人損の時効の起算点
人損の消滅時効は,いつから開始するのでしょうか。
死亡の場合を除いて、人損は要するにケガです。ケガはおおくの場合だんだんと治癒していきます。
治療の結果、もうこれ以上治らない、という時点(「症状固定時」といいます)から時効は進行します(後遺障害による損害の場合です。厳密には治療費は事故発生時から消滅時効期間が進行すると考えられますが、実務上、症状固定時からと扱うことがあります)。
交通事故でケガをしたら、入院や通院などして普通はしばらく治療します。ですので、事故後すぐに症状固定とは通常なりません。
物損の消滅時効期間や起算点
交通事故では、人損がある場合,普通は物損も生じることが多いですね。物損の消滅時効はどうなっているのでしょうか。
まず、物損の場合は、民724条が適用されますから、消滅時効期間は3年です。
次に、物損はいつから時効期間がスタートするのでしょうか。消滅時効の起算点の問題です。
物損は、要するに車両等の破壊ですが、普通は、交通事故が発生した時点で、当事者は車などが破壊されたことを認識します。
ですので、物損の消滅時効の起算点は、ほとんどの場合、事故発生時となるでしょう。
先に物損が消滅時効にかかってしまう?
ところで、物損は事故発生後すぐに時効期間が開始して3年で時効になりますが、人損はケガの症状固定まで時効が開始しませんし、開始しても5年です。
そうすると、交通事故で物損と人損の両方があった場合、物損が先に消滅時効にかかるのでしょうか。
最高裁は物損の消滅時効は事故の時から進行すると判断
この点,先に物損が時効にかかるとすると,症状固定まで長く掛かっている事案の場合は物損については先に提訴せざるを得ません。
これでは過失割合など、人損と重複する論点を先行して争う必要が生じて面倒です。
しかし,最高裁は,人損と物損は別であるとして,基本的に物損の加害者と被害を知ったとき(ほとんどの場合は事故時でしょう)から時効は進行するとしました(最高裁判所第三小法廷令和2年(受)第1252号 令和3年11月2日判決)。
このため,人損も物損もまとめて症状固定後に争うと言うわけにはいきません。先に物損を提訴しないと物損が消滅時効にかかってしまいます。
ただし,過失割合に争いがない場合には,先行して物損が解決することも多いでしょう。場合によっては、加害者と消滅時効を主張しないとの合意が取れる可能性もあります。
物損の時効にも目配りを
今後は,物損の消滅時効期間についても気をつけて,時効完成前に提訴する必要があります。
人損も物損もあって過失割合に争いがあり,かつ症状固定まで時間が掛かる場合には注意が必要です。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。