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管理組合が間違った契約しちゃった?消費者として取り消しできる?!弁護士が解説

このコラムのまとめ
- 管理組合は,以前から住民によって運営されてきたため,専門性の高い契約に関して知識が少ない事が多い。
- 管理組合は実態としては素人であっても,消費者には当たらないという裁判例あり。
- 分からないことは専門家(マンション管理士や弁護士)に相談してから行うべき。
管理組合は住民が運営
マンションの管理組合は,区分所有者である住民によって組織されます。
そして,管理組合の運営は選ばれた理事によってされます。理事は基本的に区分所有者のなかから選ばれます。
第三者管理以外では,理事会で管理組合の様々な契約の内容を検討したり,組合に諮って契約を締結したりします。大変なご苦労ですよね。
管理組合の理事は単にそのマンションの住民というだけですので,マンションの管理について詳しい人もいるでしょうが,ほとんどの場合,はじめはみなさん素人でしょう(理事として経験を積まれて,みなさん詳しくなっていかれます)。
大規模修繕工事の請負工事契約や,電気の受給契約,ネット環境の一括契約など,マンション管理にかかわる様々な専門的な契約が理事の方の前に現れてきます。その当否を判断することは簡単ではありません。
ましてや,管理組合の理事は他にお仕事をされていることが多く,仕事終わりや休日に集まって検討するなど厳しい状況の中で尽力されています。
そんな管理組合が,間違った契約を結んで損をしてしまった場合,実質的に決定した理事達は素人なのだから,消費者契約法で取り消したり,無効になったりしないのでしょうか。
消費者契約法による取り消しや無効
消費者契約法とは,素人である消費者が,プロである業者と知識量や経験の差によって不利益を被る場合に,契約を取り消したり,不利益な約束を無効にしたりできる法律です(消費者契約法1条)。
例えば,重要な事項について事実と異なることを告げて契約したり(第4条1項1号),消費者にとって不利益な事実を告げなかったために誤認したり(同条2項),そうした場合に契約を取り消すことができるとしています。
また,事業者に対する損害賠償請求権を免除させるような不利益な条項などは無効となります(8条各号)。
管理組合も,大規模で専門的な契約について,よく分からずに契約してしまって不利益を被った場合,消費者契約法の適用を受けて契約を取り消したり無効に出来ないでしょうか。
管理組合は消費者か
そもそも消費者契約法の適用を受けるのは,消費者だけです。
消費者とは何かにつき,消費者契約法に明確に定義があります。
消費者契約法2条1項には,「「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。」と明確に規定されています。
そうです。消費者とは個人であると明確に規定されていて,団体である管理組合は消費者には当たらないのです(東京地裁判決平成22年11月9日)。
管理組合がマンション住民という個人の利益を守る為に存在する団体であり,理事も「素人」から選任されているとしても,団体である管理組合には消費者契約法は適用されないこととなります(消費者契約法逐条解説も同様)。
マンションの専門家への事前相談が重要
結論として,管理組合は消費者にあたらないので,消費者契約法によって契約を取り消したり無効にしたりはできません。
しかし,管理組合の理事が(少なくとも始めは)素人であることは否めません。
そのため,重要で大規模な契約を行う場合には,前もってその内容の妥当性をマンション管理の専門家(弁護士やマンション管理士など)に相談するのが重要です。転ばぬ先の杖として,ぜひマンション管理の専門家をご活用ください!
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。
ADRでも時効をストップ!住宅紛争審査会がさらに便利に!弁護士が解説

このコラムの要約
住宅に関する紛争を解決する手段としてADRである住宅紛争審査会があります。
手軽に利用できるこの制度ですが、令和3年の改正で、①住宅紛争手続でも時効の完成猶予効が付与されます。
また、②対象が拡大され、住宅リフォームやマンションの大規模修繕の瑕疵保険も対象となります。
より選択しやすい制度となったADR、住宅紛争審査会のご利用については、お近くの弁護士会にご相談ください。
住宅トラブルの解決に手軽なADR
建築のミスや代金を巡るトラブルなど、住宅に関する紛争は数多く発生しています。
トラブルを解決するための最終手段は裁判です。しかし、それよりも簡単に、「ちゃんとした人のちゃんとした意見」を聞ければお互い納得できることがありますよね。
そうした要請に応える、裁判では無いけどもトラブルを解決するための手続、ADRが近年充実しています。
各弁護士会が運営している住宅紛争審査会も、住宅紛争を解決する代表的なADRで、比較的活発に利用されている手続です。
消滅時効が止まらない!ADRの問題
以前から、住宅紛争審査会によるあっせんや調停の手続では、消滅時効が問題となっていました。
欠陥住宅による損害も権利である以上、いつかは消滅時効が完成して、請求できなくなってしまいます。
時効の進行を止めるには、訴訟の提起、裁判所に訴えることが必要です。一旦提訴すれば、時効の進行は止まり(民法147条1項)、判決なりで最終的に解決されることになります。
一方、ADRである住宅紛争審査会の手続は裁判と同じような機能を果たすのですが、住宅紛争審査会にあっせんや調停を申し立てても消滅時効の進行は止まりませんでした。
そのため、時効の完成間近の事件では、ADRを利用することができず、はじめから訴訟を選択したり、手続途中に時効がせまってきた場合は別途時効完成猶予の合意を取り付けたりせざるを得ませんでした。
住紛でも消滅時効がストップするように!
こうした不便を解決するため、令和3年5月28日に住宅品確法および住宅瑕疵担保履行法が改正され、住宅紛争手続においても時効をストップする効果(完成猶予効)が発生するようになりました。
具体的には、住宅紛争審査会への手続開始時に時効が完成していなければ、その手続が解決の見込みなしとして不成立におわった後1か月以内に裁判所に提訴すれば、ADRの手続申請時に訴えの提起があったとみなされるため、時効完成後の提訴でも消滅時効に関わらないようになりました(ざっくり書いたので、より詳細な規定は品確法73条の2、保険付き新築住宅に関する住宅瑕疵担保履行法第33条2項を参照)。
この改正の施行日は令和3年9月30日です。すでに係属中の事件にも適用されます(改正法付則第3条、第4条)。
ただし,時効の完成猶予効が生じる範囲について,ADRの目的となった請求内容と,訴訟上の請求が同一なのかどうかで問題が生じることもあるでしょう(請求の特定)。同一なのかどうかは裁判所が事案ごとに判断することになります。
住宅リフォームも対象!
また、今まで対象では無かった住宅リフォーム(瑕疵保険)やマンションの大規模修繕(瑕疵保険)、既存住宅瑕疵保険も対象になりました。
ADRの利用は各瑕疵保険への加入が条件となりますが、いずれも工事発注時に業者に加入を求めることで解消が見込まれます。
住宅紛争処理手続のために4月以内の期間で訴訟手続を中断することが可能に
すでに訴訟で争っている事案でも,当事者双方が共同で申し立てれば,裁判所は訴訟を一時中断して住宅紛争処理手続に委ねることができるようになりました(品確法73条の3)。その期間は4か月以内です。
これによって,既に訴訟になっていても紛争処理手続が使えることになり,より柔軟な解決ができるようになります。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。