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これはピサの斜塔か・・・?!めっちゃ傾いている建物を買ってしまった!弁護士が解説

このコラムのまとめ
- 中古住宅の購入において,建物自体に明らかな傾斜があった場合に,それが隠れた瑕疵にあたるのか。
- 内見したときに分かるのでは無いか。また,重要事項説明にも傾斜発見と記載がある。そのような場合に「隠れている」と言えるのか。
- 裁判所は,内見はごく短時間であること,荷物が散在していて分かりにくかったこと,床の傾きの告知と建物の傾斜とは同じではない(床だけが傾斜している可能性だってある)として,隠れた瑕疵にあたるとした(大阪地判平成15年11月26日)。
- とはいえ,あえて売主に確認しなかったとして,買主による瑕疵担保責任に基づく請求は棄却した。
中古住宅を買うときは慎重に
人口減・低成長の現代において,新築住宅を買うことは,かつての高度成長期と同じではありません。
傾きが激しい場合,それは当然。
一方で,不動産は,それぞれ全て違う物であることがその特徴となっています。
(新築でも言えますが)中古住宅の場合,経年による劣化も当然ありますので,不動産それぞれの個性を十分に理解した上で購入しなければ,おもわぬ損害を被ることがあります。
中には傾いている建物も
中古住宅にどんな欠点があるかはそれぞれですが,中には建物が傾いている場合もあります。
傾いている建物は,生活に不便が生じるのは当然ですが,最悪の場合倒壊の危険があります。
保険会社では,地震などで傾斜が1000分の18以上担った場合,全損扱いとされているようです。つまり,建物としては「終わっている」扱いです。
さすがに内見で分かるのでは?
上記のような顕著な傾斜がある場合は,当然,建物の瑕疵にあたります。
しかし,さすがに倒壊レベルの傾きがあれば,それこそピサの斜塔のように,あからさまに傾いているのでは無いか?と疑問に思いますよね。要するに,見れば分かる,と。
建物の売買で内見をしないことはおよそ無いので,買主は当然建物を内見しているでしょう。その時に,傾きは明らかになっているのではないか,そのため「隠れた瑕疵」とはいえず,瑕疵担保責任(契約不適合責任)を追求できないのでは無いか,という疑問が生じます。
この点について裁判所の考えを示した裁判例があります(大阪地判平成15年11月26日)。
この裁判例では,買主は内見をしており,さらに傾きについて重要事項説明書に「床の傾斜発見」と記されていました。一方で,売主は傾斜について内見時には一切説明していなかったようです。
内見では短時間過ぎて分からない
裁判所は,傾斜は,外からは一定の距離を取ってじっくり見ないと分からないこと,内見では買主は短時間しか建物内部などは見ることが出来ないこと,部屋の中に荷物がたくさんあったこと(荷物が無いフラットな床状態なら傾斜を認識しやすかったが)などから,容易に発見できないとして,隠れた瑕疵であると判断しました。
一方で,あえて売主に確認しなかったという過失がある為,瑕疵担保責任に基づく請求は結局は棄却しました。
反対に,売主側に対しては,傾斜について告知義務を認め,告知しなかったことは不法行為に当たるとして損害賠償義務を負わせました。
最終的に,この不法行為に基づく損害賠償について,買主も過失があるとして過失相殺(買主1:売主2)をしました。
ちゃんと告知しよう
売主側がこれほどの傾斜について説明しなかった真意は不明ですが,仮に隠したとしても,あとで裁判で負けるわけです。
それならば,はじめから納得してもらって売った方が,結局は低コストだと思います。
売る方も買う方も,重要説明が大事ですね。重要だけに。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。
ヤバイ採用面接!不動産買わないと就職できない?マンション購入が消費者契約法で取り消し!弁護士が解説

このコラムのまとめ
- 就職に必要だとしてマンションを購入させた売買契約が,消費者契約法4条3項3号イにより取り消された事例。
- 売主は直接は不安をあおる告知自体は発していなかったが,評価額1200万円程度の物件を約3000万円で売って不相当に過大な利益を得た点などが,売主の関与を認定する一つの論拠となった。
- 就職するのに自宅不動産の購入は不要であり,慎重に行動するべき
持ち家はある種のステータス・・・でも就職に必要?
マンションであれ,一戸建てであれ,持ち家というのは一つのステータスなのだろうと思います。
しかし,家を持っていることが,就職の条件になるでしょうか?そんなことは普通ありえないですよね。
でも,言葉巧みに,不動産買わないと採用できないよ!と言われたら・・・。普通は信じないんでしょうけども,社会経験の少ない人だと勘違いしてしまうことはあるかもしれませんね。
そんな場合,買ってしまった人は契約を取り消せるでしょうか。
消費者契約法による取り消し
消費者契約法は,詐欺などの様々なトラブルに際し,消費者を保護する法律です。最近は霊感商法の関係で話題になってますね。
この法律を使って,消費者は,一定の要件のもとに,締結してしまった契約を取り消すことが出来ます。
不安をあおる告知(消費者契約法4条3項3号)の要件
消費者契約法では,不安をあおるような話をして契約させた場合に取り消すことができます。詳しい要件は以下のとおりです。
・当該消費者が、社会生活上の経験が乏しいことから、次に掲げる事項に対する願望の実現に過大な不安を抱いていることを知りながら、その不安をあおり、裏付けとなる合理的な根拠がある場合その他の正当な理由がある場合でないのに、物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものが当該願望を実現するために必要である旨を告げること。
イ 進学、就職、結婚、生計その他の社会生活上の重要な事項
ロ 容姿、体型その他の身体の特徴又は状況に関する重要な事項
・上記の行為をしたことにより困惑し、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたとき
結構複雑です。ごく簡単にすると,世間知らずに乗じて,進学や就職,結婚のためにはこれを買わないとダメだよ,とか,痩せる為にはこのコースに申し込まないとダメ!のような,根拠も無いのに不安にさせて契約させるような場合には,取り消すことが出来るのです。
類似の裁判例
本件の事例に類似した裁判例があります(東地令和4年1月17日判決)。
この裁判例では,①Xは26歳で大卒後3年程度運輸会社に勤務した程度の社会経験しかなく,自動車の購入すらしたことが無かった者であったこと,②A社への就職内定を得る為になんら必要で無かった3000万弱の住宅ローンを組んでまでマンション購入したこと,から,社会経験が乏しく,就職という願望の実現に過大な不安を抱いていたと認定されました。
また,A社との面接において,XはA社担当者からアピール力に欠けていると言われ,さらに同席していた転職支援のB社担当者からも,マンションを購入してでも入社したいという意欲を示せと言われました。そして,後日A社の関連会社で不動産会社であるC社との面談前にも,A社担当者から,マンション購入の意思があると言うように助言されました。その後も,三社の担当者から言われるままに,Xは売主Dとの契約締結しました。
そもそも就職するに際してマンションを購入する必要など皆無であり,A,B,C社はなんら正当な理由が無いのに,就職にはマンション購入が必要である旨を告げ,これによって困惑したXはDとの不動産購入契約を締結したと認定されました。
告知した者と契約者がちがう場合
さて,この裁判例で問題となったのは,上記の不安をあおる告知自体に,売主Dはその場に参加していなかったことです。契約当事者はDなので,Dが不安をあおる告知を行っていないと取り消せません。
しかし,常識的に考えて,上記認定のような手法で契約させるようなグループであるならば,売主が全くの無関係というのは考えにくいことです。
この点,上記裁判例では,以下のように判断しました。
まず,当該マンションの価値が1200万円程度との鑑定結果が出ており,新築時も2000万円程度であったこと,前所有者は1300万円程度で売りに出していたことを認定し,約3000万円で売却した売主Dは不当に過大な利益を得たことを指摘します。なお,リフォームすれば3000万円程度であるとの反論には,当該マンションはリフォームしていないことを指摘して排斥しています。
さらに,就職の紹介会社にすぎないB社や採用するかを決めるにすぎないA社の担当者が内見に同行したり,契約締結に深く関与したことについて,極めて不自然と断じました。
そして,過大な利益を受ける売主DがAないしCによる勧誘行為に関与していなかったとは考えがたいと述べています。
さらに,売主Dの責任免除などを定めた公正証書をC社の指示で作成したこと,XがC社からD作成のチラシ(リノベーション無しで3000万円)を交付されたが,D社は別の相手にはリノベーション済みで3000万円とするチラシを交付していたことなど,売主Dの勧誘への関与を推認させる事情を指摘しました。
その他の事情も考慮し,裁判所は売主D社も勧誘に関与していたことを認定し,契約の取消しを認めました。
まず相談してから行動しましょう
就職を餌に不動産を買わせるなんて,多くの人にとっては「そんな馬鹿な」と思われる事例かもしれません。
さすがにこんな場合には多くの人が「おいおい,ちょっと待てよ」と思うでしょう。
しかし,分からないことは人それぞれたくさんあります。分からないことについて勧められた時に迷うことはだれしもあるでしょう。そんなとき,少し立ち止まって,自分よりも詳しい人に相談することが身を助けることになります。特に不動産購入のような重大な契約をする前には十分に気をつけましょう。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。