死後事務委任契約と遺言は,死後のことを決めて他人に託すという点では同じですね。
ではどのようにちがうのでしょうか。また,死後事務委任契約と遺言が互いに影響することはあるのでしょうか。
1 遺言はできる事項が法律で決められている
まず,遺言書には「なんでも」書けます。
しかしながら,遺言として法律上効力を発揮する,つまり相続人を拘束する効力を持つ内容は,法律で限定されています。
以下に掲げる事項以外を遺言書に書いても,そのとおりの内容を実現させる効力は無い,ということです(そうした法的拘束力の無い部分は,付言事項として扱われます)。要は,書いてあるだけ,ということです。
(遺言事項)
- 1 相続分や分け方,相続人についての事項
- 2 遺贈や信託について
- 3 子の認知や未成年後見について
- 4 遺言執行者について
- 5 祭祀の承継者や遺言の撤回など
2 遺言事項以外は死後事務委任契約で
遺言が限られた事項にしか意味が無いため,上記の法定遺言事項以外を遺言書に書いても法的拘束力がありません。
そのため,これらに法的拘束力を持たせるために,死後事務委任契約を締結するのです。
3 遺言と死後事務委任契約が抵触する場合
ところで,遺言と死後事務委任契約が両方されている場合に,その内容が食い違ってしまうことがあります。
その場合には,どちらが優先されるのでしょうか。
(1)死後事務委任契約が先→遺言が後 の場合
まず死後事務委任契約が締結され,遺言が後にされた場合に,二つが抵触する場合があります。
この場合は,最終意思である遺言が優先されると考えられます。
(2)遺言が先→死後事務委任契約が後 の場合
次に,先に遺言がされ,その後に死後事務委任契約が締結された場合に,二つが抵触する場合はどうでしょうか。
この場合は,遺言の撤回擬制である「生前処分その他の法律行為」(民1023条2項)にあたるかどうかが問題になります。
通常考えれば,生前の最終意思が優先されるべきであって,死後事務委任契約が優先されると思われますが,裁判実務でははっきりと結論はでていません。そのため,抵触する遺言は明示的に撤回する遺言を新たにしておくべきでしょう。
なお,死後事務委任契約によって遺留分を侵害する場合には,相続人からの解除が認められると思われます。
執筆:弁護士 田村裕樹 2023年1月時点の法令・解釈等に基づいています。