1 税務調査は関与税理士が頼りになる
ご商売しているあるいは会社を経営されている方にとって,税務調査は,まるで警察が来たかのような緊張と不安を感じるものでは無いでしょうか。
特に心当たりはなくても,なんらかのミスで税額が変更になってしまうことはあるでしょう。いったいいくら払わなければならないのか,不安になるのもやむを得ません。
そんなとき,税務署への対応の矢面に立つのが,普段からお世話になっている関与税理士の先生です。
関与税理士は,その納税者の経理や税務処理を最もよく理解している専門家ですから,税務調査への対応にはまさに適任ですし,普段の顧問契約はこのような緊急事態のためのものですから,関与税理士の先生も頑張って対応されると思います。
2 税務調査は手続法も重要
一方で,税務調査への対応は,税理士としての本業である計算や税務申告とはやや異なる側面を持っています。
ひとつには,これが行政手続の一つである点です。さらに,一般の行政手続とは異なる規律をされている特殊な手続でもあります。
こうした行政手続に関する知見や経験は,必ずしも普段の税法の知識と重なるものではありません。
後に課税について当局と争う事態が生じた際に,課税手続の適法性が問題になることもあります。税務署の対応が行政手続として正しいのか,判断に迷うこともあるでしょう。
3 争いごとになると,税法そのものの理解が必要
さらに,税務調査が進展して,当局から課税(更正処分)される状況になったとします。
その場合,課税処分にあたっての税法の適用の可否が問題になります。
ここで課税当局と議論するには,税法の知識が絶対に必要になります。
税理士の先生は当然税法についての知見が豊富にありますが,ここで重要なのは,「条文」とその解釈です。普段の業務において,税理士の方々は,解釈の一つである課税当局の「通達」にしたがって処理されていることと思います。
しかし,税務調査や更正処分に対して最大の利益を実現するには,解釈の一つである通達の射程範囲を争ったり(本件は通達が予定されているシチュエーションではないから適用されない,という主張です。)あるいは条文の解釈そのものを争う(通達自体が間違っているという主張です。)必要もあるでしょう。
その際,こちらの主張を支えるのは,条文から導かれた解釈,そしてその解釈が妥当であるという法的議論です。
税理士の先生でも,普段から税法の条文をチェックされている方は少ないでしょう(普段の業務ではあまり必要がないので,それ自体は普通のことと思います。)。
一方で,条文から主張を組み立てる(解釈する)のはまさに弁護士の得意分野です。この点では,弁護士が大きな助けになるでしょう。
4 税理士の先生もぜひご相談ください
税務調査への対応は,なにも税務訴訟とイコールではありません。
再調査の請求や国税不服審判所への審査請求など,段階に応じて様々です。もちろん,ネゴシエーションで解決することも(数としては一番)多いでしょう。
そうした解決への方針決定を間違うと,場合によっては税賠訴訟の対象にもなりかねません。具体的な争訟手続を前提にしない場合でも,弁護士の意見を聞くべき場面は多いでしょう。
当職は,税賠訴訟の代理人経験もございます。転ばぬ先の杖として,ぜひ税理士の先生もご相談ください。
執筆:弁護士 田村裕樹 2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。