1 遺留分侵害額請求とは
遺留分侵害額請求とはなんでしょうか。民法では,「遺留分権利者及びその承継人は,受遺者又は受贈者に対し,遺留分侵害額に相当する金銭の支払を請求することができる」(民1046)と規定されています。
要するに,相続において,
遺贈などで受け取る額が低くなった,あるいは無くなった法定相続人(のうち遺留分権利者)は,原則として法定相続分の2分の1までについては,不足分を請求できるというものです。
2 遺留分は法律上の権利です
そもそも,遺産とは亡くなった親族(被相続人)の財産だったものであり,これを処分する権能は生前の本人にありました。特定人への遺贈も本人が決めたものですから,本来的には有効なはずです。
そのため,遺留分が侵害されている法定相続人であっても,「もらっていいのかな?」と侵害額を請求することにためらいを覚える方も中にはおられます。
しかし,遺留分は,フランス法由来の立派な民法上の権利です。この権利を主張しないことも結構ですが,主張してもなんの問題もありません。
遺留分があることは民法に規定されています。それこそ,今生きている全ての日本人が生まれる前から規定されていました(もっとも,旧民法時代は家督相続を前提にしていますので,今とは異なる制度でした。)。
日本人は遺留分制度を前提に行動しているはずで,何も予想外のことではないのです。
3 どのように請求するか
遺留分制度は近年改正されましたが,改正前の遺留分制度では,遺留分が侵害されている場合,差額での清算では無く,共有になる制度でした。この場合,例えば不動産も共有状態になり処分するのに全員の同意が必要になる,株式も共有となってせっかくの事業承継の枠組みが壊されるなど,弊害がありました。
改正によって,遺留分は金銭債権となったため,遺産が共有ではなくなり,上記の問題が解決しました。
解決方法としても,以前は,贈与または遺贈を受けた者に対して,遺留分侵害の限度で贈与または遺贈された物件の返還を請求する調停や訴訟を提起する方法によっていましたが,現在では遺留分に相当する金銭の支払いを請求する調停や訴訟を提起することができます。
なお,遺留分侵害額請求は調停をまず先に行うべきことが規定されています(家事事件手続法257条1項,244条,調停前置。)。
4 弁護士が介入するメリット
遺留分は,何もしないと消滅時効によって権利を失います(1年間(および10年間)の期間制限,民1048)。遺留分減殺請求の意思表示が必要です
また,遺留分の計算はやや複雑です。
通知を証拠に残すことも含め,最初から弁護士に依頼して手続を行う方が安心でしょう。
反対に,弁護士に依頼しない場合は,全てご自身で行う必要があります。法的判断だけで無く,通知には期間制限もありますのでご注意ください。
執筆:弁護士 田村裕樹 2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。