1 遺産分割協議の難しさ
遺産分割は,事実の調査でもあり,民法上の問題でもあり,課税上の問題も生じるという多面的な案件です。弁護士である私も,例えば税金の面では税理士の先生にご協力頂き,協力して解決していくことが多々あります。
そして,遺産分割は相続という家族法の分野です。家族であることに(定義はあっても)理屈はありません。そもそも人を好きになり,子をなし,家族が生まれるのは,愛情という感情のなせるものです。弁護士として関わる遺産分割においても,感情が大きなウェイトを占める手続であると感じることがあります。
2 弁護士に依頼するメリット
- 事実の調査
まず,遺産分割にあたって,戸籍から相続人を調査したり,遺産の存在を探索する必要があります。簡単に判明する場合も多々ありますが,一方で非常に複雑かつ大規模な場合もあります。
こうした調査はご自身ですることも可能ですが,専門家の方がより適切に処理することができるでしょう。 - 民法等の問題
遺産分割は相続ですので,当然民法の相続法分野の理解が必要です。
また,相続財産の性質により,株式であれば会社法関係が,不動産であれば場合によって不動産関連の法律が関係してきます。
そして,法律分野は,いつでも答えが一つに決まっているわけではないのです。いろんな可能性の中から,事実を見て,主張を組み立てる必要があります。この点は,調べるだけでは解決できない部分であり,法律の専門家が力を発揮します。 - 税法の問題
法律問題において,基本的に目指すのはより大きな利益でしょう。
この点,相続においては,単に取り分を多くするだけでは不十分です。結果として実現した相続においてどれだけ課税されるのかもシミュレーションする必要があります。
この点は税理士の先生とのコラボレーションが最も効果的です。 - 方針決定の難しさ
上記の問題点を総合的に判断して,方針を決定する必要があります。
特に民法と税法の両方の素養が求められますので,どちらかの専門家であっても判断が難しい場面が多々あります。もちろん,一人の専門家が全てをできる必要はありませんが,全体を俯瞰することができる船頭がいることが望ましいです。
可能な限り良い解決を得るには,税法に明るい弁護士が最も適切な船頭役となるでしょう。 - 心の負担
相続は,家族の,感情の問題という側面があります。
相続で争う相手は,多くの場合,ご自身の親族です。それだけでも心の負担は大きいでしょう。
その上,上記のような技術的な問題までご本人がカバーするとなると,その負担感は相当に重くなります。
せめて技術的な側面は弁護士などの専門家を利用して頂き,心の負担を軽減して頂ければと思います。
3 弁護士に依頼するデメリット
一方で,弁護士に依頼するデメリットとしては,弁護士費用がかかります。
弁護士は専門家として高度な教育や訓練を受け,経験を積んでおりますので,その費用がかかることは,ある程度やむを得ない部分です。
依頼前に報酬などの条件を詳しく相談して頂ければ,より納得した上でご依頼頂けると思います。
執筆:弁護士 田村裕樹 2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。