払えなくなったら詐欺?簡単にはそう言えない法律の世界!あの森友裁判を弁護士が解説

このコラムのまとめ

 森友学園が校舎の建築会社から訴えられた裁判の判決がありました。

 この裁判で建築会社は、森友学園側が詐欺(民法上の詐欺ではなく、不法行為としての詐欺)をしたと主張していました。

 森友学園側が私学助成金などで嘘をついていたことは認定されましたが、だからといって建築代金を払う気がなかったとまではいえないと裁判所は判断しました。

 嘘をついたのに詐欺じゃ無いのかと思われるかもしれませんが、他の事情を考えてみれば、森友学園側は最初はお金を払うつもりがあったという裁判所の判断は不自然とは言えないのでは。

払うって言ってたじゃないか!

 民法上の詐欺に厳密にあたるかどうかはともかく、「払う」という言葉を信じて契約したのですから、結局払えなくなったら「詐欺だ」と言いたくなる気持ちは分かります。

 大阪の学校法人から校舎の建築を請け負った会社が、請負代金を払わずに民事再生手続にはいった学校法人に対して、詐欺だとして訴えた事案があります(大阪地方裁判所平成29年(ワ)第11188号 令和3年8月24日第18民事部判決)。

 そうです。お察しの通り、ご存じ森友学園が工事業者に訴えられた事案です。

なぜ不法行為(詐欺)と言いたいのか

 ところで、民法上の詐欺(民96条)は、その契約を取り消す、という文脈で使われます。

 しかし、この事案では、原告は、詐欺=不法行為(民709条)であると主張しています。

 「だます」という意味では「詐欺」であり、不法行為であるとしても、これは契約を取り消すものではありません。その契約自体は存在し続けます。

 では、このような「不法行為としての詐欺を主張をするメリット」はどこにあるのでしょうか。

 例えば、債務者が破産した場合、債権者は案分で配当を受ける権利しかありません。

 しかし、悪意で加えた不法行為の場合は、非免責債権となります。

 非免責債権であれば、破産手続を経ても逃れられないことになります。

 この事案では学校法人は民事再生をしているのですが、民事再生でも、悪意で加えた不法行為は非減免債権とされています(民事再生法第229条第3項)。

 そして、この事案において管財人は、20万円を超える部分については免除率97パーセントという再生計画案を提示していました。つまり、支払われなかった債務のほとんどが弁済されないのです。

 おそらく、この事案でも、原告である債権者は非減免債権となることを目的としていたと考えられます。

嘘は認定されてる

 この事案で、「悪意で加えた不法行為」(=詐欺)といえるために、原告は、以下のように主張していました。

 すなわち、学校法人の理事長であった被告Aらにおいて、学校法人には、「当時、上記請負契約の報酬を支払う能力がなく、同報酬を支払う意思もないのに、これがあるかのように装い、原告を欺罔して上記請負契約を締結させたことが詐欺に当たる」と原告は主張していました。

 特に、、被告A(学校法人の前理事長)が「「工事代金の半分は私学助成金で支払う」等と実際には存在しない私学助成金が支給される旨の虚偽の事実を告げるなどして原告を欺罔した」との主張について、これ自体は裁判所でも認定されています。

 ただし、工事代金の半分は架空の私学助成金で支払う旨を告げた事実は認められるが、資金の調達方法を偽ったにとどまり、請負報酬を支払う意思も能力もなかったものと認めるには足らないとして、被告Aの欺罔行為も詐欺の故意も認められないと判断されました。

 裁判所は、①相当程度の寄付金があるとの見込みは合理的であること、②長年幼稚園を経営してきたこと、③夢であった小学校開設に向けて、元首相夫人を名誉校長にするなどの話題作りも行ったこと、④経営破綻したのは土地の売買代金の廉価性などが報道されて社会問題と化したことが原因であること、などのいくつもの事情を考慮して、丁寧に認定しています。

最終的にはお金は払う気があった?

 この判断に、「嘘ついて金借りたのに詐欺じゃ無いなんておかしい!」と思われる方もいるでしょう。

 たしかに、やりとりの中で嘘を交えていることはたしかのようです。

 しかし、学校法人の理事長が、「お金を払う気も無いのに学校を建てさせた」というストーリーは、不自然では無いでしょうか

 まず、学校法人には、お金が払えなくなって破綻するという未来は予測しておらず、期待してもいなかったものです。

 そして、学校法人は、建てた学校を使うつもりであり、当然そのためにはお金は払うつもりだったはずです。そうでないと学校法人に建物を建てるメリットが考えにくいのです

 こうした一般常識に基づく推論をベースにした場合(弁護士はこうした考えを「スジ」と言ったりします)、報酬を払う意思がないのに嘘をついたとまでは認定できないという裁判所の判断は妥当にみえてきます。


 この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

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