このコラムの要約
アイドルとお付き合いすることになった場合、そのアイドルが所属事務所との契約で交際が禁止されていても、多くの場合、こうした禁止条項違反とはならないでしょう。
アイドルと交際したあなたが損害賠償請求を受けることもないでしょう。
アイドルと事務所の仁義なき戦い
昨今、有名アイドルの結婚のニュースが世間を賑わせました。
とはいえ、みなさん概ねかなり年齢を重ねてからのご結婚でした。
おそらく、(プロとして)ファンや所属事務所との関係を考慮し、長年、恋人として交際をしないか、交際発表をしなかったのではないでしょうか。
アイドルと事務所の関係は、味方同士でもあり、恋愛の幸福という点では敵対する関係にもなる。
以前から、芸能人と所属事務所は主に独立する際に争っていました。
一方、契約中でも、アイドルとその行動を制限する事務所の争いもあります。
ファンと付き合ったら罰金?
事務所の中には、ファンとの私的な交際を契約で禁止し、罰金を科している場合があるようです。
そうした契約を結んでいるアイドルが男女交際をしたら、アイドルが罰金を払うハメになるのでしょうか。
雇用契約の場合
あまり無いかもしれませんが、仮にアイドルが事務所に雇用されている場合、私的交際禁止違反の違約金を設定することは、雇用契約に損害賠償額を予定することを禁止している労基法16条に違反し、無効です。
よかった!
専属マネジメント契約
雇用では無く、その事務所の専属になるという契約(専属マネジメント契約などと題されています)なら有効でしょうか。
裁判では、ファンとの性的関係を禁じて損害賠償を定めた専属マネジメント契約は、有効ではあるものの、それはアイドルが積極的に事務所に損害を与えようという意図を持って公表するなどの害意のあるときに限定されるとされました。
アイドルだって人間なのです。
好きな人と性的関係に至ることも人間の幸福の一つ。他者が軽々に妨害してはいけないのです(東地判H28.1.18労判1139号参照)。
結局、事務所を困らせるような公表などをせず、ただ恋人として付き合うだけなら、私的交際は制限されないし、罰金を払う必要はありません。
男女交際は悪いことじゃない
アイドル付き合ったあなたは、事務所から訴えられるのでしょうか?
あなたと事務所には契約関係は無いので、不法行為の成否が問題となります。
行為が違法だと言えるには、男女間の愛情ではなく、事務所に損害を与えようという目的などが必要です。
しかし、普通そんなことはないでしょう(そもそも普通の状況では無いですけどね)。
不法行為は成立せず、あなたが罰金を払うことは無いでしょう。
真実の愛は強いんですね!
芸能人以外の交際禁止契約は?
芸能人以外にも、例えばホステスなど水商売でも、契約書に交際禁止違反の違約金が設定されることがあるようです。
この場合も、損害賠償金の予定は労基法16条違反で無効ですし、不法行為にもならないでしょう(大阪地判令和2年10月19日労働判例1233号103頁参照)。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。