コラムの要約
河村市長が金メダルを噛んだことは、市長にメダルを傷つけるつもりがなかったのであれば、刑事としての器物損壊罪にあたらないでしょう。
一方、民事上の不法行為責任は負う可能性があります。
河村市長、金メダルかむ
始まるまでは本当に色々ありましたが、終わってみれば過去最高の成績となった東京オリンピック。
多くの金メダリストが生まれたこの大会終了後、メダリストたちは様々な場にひっぱりだこ。お約束とも言える地元首長への表敬訪問で、大きな反響を及ぼす事件が生まれました。
2021年の8月4日、名古屋市の河村市長がソフトボール選手の金メダルを突然噛んだのです。
詳しい時系列は、2021年8月にまとめられたNHKの「【時系列で詳しく】河村市長金メダルかむ〜批判〜交換へ」(https://www.nhk.or.jp/politics/articles/lastweek/65585.html)が参考になります。
河村市長の行為は、法律上、どういう問題があるでしょうか。
ここでは、刑事上の問題と、民事上の問題の二つが生じることに気をつけましょう。
刑事事件としての器物損壊罪にあたるか
まず、罰金支払などの刑罰がある器物損壊罪(刑法261条)にあたるかを考えます。
金メダルがものであることは明らかなので、「損壊」にあたるかを考えてみましょう。
「損壊」とは、その物の効用を害する一切の行為と考えられています。本来持っている価値を低下させることも含まれます。
物理的には問題なくても、心理的に使用できない状態になることも損壊にあたります。
例えば、有名な戦前の判例で、料理店の食器に放尿した場合に、「損壊」にあたるとしたものがあります。
今回のメダルを噛むという行為は、物理的には損壊とまでは言えないでしょうが、あまり親しくない男性の口で噛まれたことで「女性メダリストのオリンピック金メダル」の本来持っていた価値を低下させたと考えられます。
さらに、このコロナのご時世に、メダルを口に入れてつばを付ける行為自体も、その価値を低下させる行為ではないでしょうか。
以上のように、金メダルを噛む行為は「損壊」にはあたると思われます。
一方で、河村市長が、わざとメダルの価値を下げてやろうという意図(故意)でメダルを噛んだかというと、必ずしもそうとは言えないでしょう。
そして、器物損壊罪には過失による行為を処罰する規定はありません。
結論として、市長にメダルを傷つけるつもりがなかったのであれば、金メダルかみは器物損壊罪にはあたらないでしょう。
民事上の責任を負う可能性
一方、他人のものを損壊した場合、それが過失によるものであっても、民法の不法行為(民709条)に該当し、損害を賠償する責任が生じます。
金メダルを噛む行為も、不法行為に該当する可能性があります。
民事上の責任は基本的に支払や賠償などお金で解決することが予定されています。
河村市長がメダルの交換費用の支払いを申し出たのは、おそらく道義的な責任を感じてのことでしょうが、民法的には上記のようにも評価できるでしょう。
この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。