1 家賃を回収するには
建物明渡をお考えになる場合,多くの大家さんは入居者による賃料不払いの損害をうけているでしょう。
そこで,家賃を回収したいと考える方もおられると思います。
まず,家賃の回収については,早めに動くことが鉄則です。
通常,借主にとって,債務の支払いにおける家賃の優先順位はきわめて高いです。人間の生活の基本的活動を「衣食住」と言いますが,これらは人間に欠かすことができないものです。その住まいの費用である家賃は,生活に必須の費用として優先して支払われるのが世間の常識といえます。
反対にいうと,家賃を払えない状態は,相当生活に困っているとかんがえてよいでしょう。すなわち,払いたくても払えないのです。家賃滞納している入居者の支払余力は基本的に無い場合が多いでしょう。
ただし,例外的に,滞納家賃を支払える場合もあるので,これ以上借主の経済状態が悪くならないうちに,とにかく早く動くことが肝要です。
2 裁判手続(訴訟)による回収
(1)任意の交渉
賃料不払いがあった場合,まずはすぐに借主に連絡して請求しましょう。
場合によっては内容証明などで証拠を残すことも必要です。
(2)裁判手続
家賃の不払いも訴訟によって解決することが考えられます。額が少額(60万円以下)ならば少額訴訟という簡易な手続もあります。ただし,回数制限(同一年に10回まで)があること,被告が同意しない場合は通常裁判に移行するなど注意すべき点があります。
他にも簡易な方法として支払督促があります。相手が争わない場合には簡単に債務名義を取得することができます。一方で,争われると本訴に移行する可能性もあります。
3 執行手続による回収
上記のような裁判手続によって判決(債務名義)を得ても,借主に任意に支払ってもらえない場合は強制執行が必要になります。
執行手続は,まず差し押さえて換価する対象になる財産が債務者(借主)になければなりません。債務者の預金口座であったり,勤め先(給与債権),不動産などなんらかの財産があることが前提になります。
また,執行手続は,差し押さえて換価する対象が何かによって手続がかわってきます。
執行手続は,訴訟手続以上に一般の方が遂行することが難しい手続です。執行手続のみを弁護士に依頼することも皆無ではありませんが,この段階では弁護士が受けられないことも多々あります。
やはり当初から弁護士に依頼するとスムーズに適切な手続を執れます。
執筆:弁護士 田村裕樹 2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。