1 家賃の未払いは重大問題
賃貸業をされている方(大家さん)にとって,収益源はただひとつ,入居者からの賃料等です。
必然的に,家賃の未払いは大家さんにとって最も重大な問題となります。
2 なぜ立退きを優先させるべきか
賃料不払いの入居者がいる場合,大家さんは何を優先すべきでしょうか。
賃貸業にとって,家賃は最も重大な問題ですから,当然家賃の回収でしょうか。
私の意見では,家賃の回収よりも,立退きさせることを優先すべきです。なぜそう考えるのかをご説明します。
賃貸業は,いうまでもなく収益事業です。
事業とは,利益を出すために行われるものです。事業には,元手となる経費が当然かかっています。賃貸業の場合は,賃貸物件の取得費用(ローンの支払いなど)や管理の費用が経費としてかかります(ただし,これらが全て税務として経費計上できるかとは別論です)。そして,家賃等収入からこうした経費を除いたものが,賃貸業にとっての利益となります。
賃貸物件は物理的に存在していますから,たとえ家賃が入らなくても経費はかかります。
重要なのはこの点です。
損失の拡大を防ぐため,家賃を払えない賃借人を立ち退かせることが最優先事項となります。
立ち退かせることによって,新しい賃借人を入れてきちんと収入が入るように事業を正常化することができるのです。
3 どうすれば立ち退かせることができるか
では,どうすれば家賃不払いの入居者を立ち退かせることができるでしょうか。
入居者が賃貸物件に住んでいられる根拠は,入居者が大家さんと建物賃貸借契約を締結したからです。すなわち,建物賃貸借契約を解除することが,立ち退かせるために必要になります。
建物賃貸借契約を解除するのは簡単ではありませんが,今回は賃料不払いがあるという前提でお話しします。
契約は,当事者が双方債務を負っていることが多いですが,賃貸借契約も同じです。借主は,賃料を支払うという債務を負っています。賃料の支払という債務を怠った場合,それは債務不履行となって契約を解除する原因となります。
賃料未払いの解除では,その未払い期間が重要です。東京地裁の実務では,建物賃貸借契約の場合,3か月以上の賃料不払いがあれば,解除が認められます。
ただし,解除するには適切に解除の意思表示を行う必要があります。
契約の解除原因は,他にも用法違反などがあります。しかし,用法違反を主張して解除することは簡単ではありませんので,解除の可否について弁護士に相談することをお勧めします。
また,建物賃貸借契約には契約期間があります。契約期間が終了すれば返してもらえるのでしょうか。建物定期賃貸借ではなく,普通賃貸借の場合は,借地借家法によって借主が保護されており,期間満了により解約申入をする場合は,貸主に正当事由が必要になります。要件が厳しく,様々な要素が考慮されますので,詳しくは弁護士に相談してください。
4 契約書が無い場合はどうか
古い契約のため建物賃貸借契約書が無い場合や,法定更新で期間の定めがない契約になっている場合はどうでしょうか。
上記の債務不履行解除については,特に変わるところはありません。
契約期間がないという点では,解約申入をして6か月後に解約できることにちがいがあります。
ただし,解約申入には正当事由が必要であることに変わりはありません。
執筆:弁護士 田村裕樹 2021年7月時点の法令・解釈等に基づいています。