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老朽化マンションを建て替えろ!政府が建替えに必要な要件緩和を検討!でも実は敷地売却が重要!?弁護士が解説

2022-03-04

マンションの建替えは難しい

 地震を筆頭に、災害の多い我が国日本。そのため建物の強靱化は極めて重要な課題です。

 特に耐震性能の不足するマンションは、これまでずっと建替えの必要性が叫ばれてきました。

 しかし、マンションの区分所有という特殊性が、建替えを阻んできた歴史がありました。

マンションはみんなで所有しているので、みんなで決めなければならない

 マンションはその特徴として、建物を住民みんなで所有しています。

 詳しく言うと、各部屋(「専有部分」といいます)はそれぞれの持ち物ですが、廊下やエレベーターなどみんなで使う部分(「共用部分」といいます)はみんなで所有しています。

 共用部分を含む建替工事は、基本的には全員一致で決めなければなりません。

 しかしそれではあまりに面倒なので、区分所有法は総区分所有者の5分の4の賛成で建て替えられるとし、要件を緩和しています。

 なお、建替えをあきらめて敷地ごと売り払って分配しようとすると、民法の原則に戻って、全員一致でないとできません。なお,耐震性がない,あるいは外壁等の剥落により危害が生じる恐れのあるマンションは要除却認定対象となって5分の4での合意に緩和されています。

 建替えの賛成数が緩和されたとはいえ、5分の4の賛成を得るのは簡単ではないです。要除却認定されてもやはり5分の4の賛成が必要です。

 そのため、多くの建替えるべきマンションにおいて、住民間で建替えの機運が高まっても、あえなく頓挫してきました。

マンションのスラム化

 近年、建物の老朽化にともない、マンションの所有者が不在となっている場合があります。

 住民全員で所有しているというマンションの特性上、建物の管理およびその費用は区分所有者が負担します。

 ですので、人がいなくなる(区分所有者自身はどこかに存在しているのですが、管理に参加したり管理費を支払わなかったりする状態です)ことは、マンションの管理状態に悪影響を与えます。

 人がいなくなると、管理費が足りなくなったり、管理組合が運営できなくなったりして、建物のメンテナンスが滞り、悪化した住環境を嫌ってさらに住民が離れます。

 こうしてマンションのスラム化が進行してしまいます。

 さらに、相続が発生して、現在の所有者が誰なのか分からないこともあります。

 このようなスラムマンションは、客観的には建替えの必要性は高いのですが、建替えの同意は取れるでしょうか。建替えに対する元々厳しい5分の4以上の賛成数が、不在者がいることでさらにクリアが厳しくなります。

 スラム化によって、事態の解決がどんどん遠くなっていますね。

賛成数を4分の3に引き下げ

 こうした状況に鑑み、政府はマンション建替えの賛成要件を4分の3に引き下げる方向で検討しているとの報道がありました。

https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA112K70R11C21A1000000/?n_cid=NMAIL007_20211210_A&unlock=1

 これにより、主に賛成要件で滞っていた建替手続が促進されることになると思います。

問題は建替資金

 実は、賛成要件を多少引き下げても、いまだ建替えの最も大きな障害が残っています。

 それは、建替えの資金です。

 マンションの建替えは、あたらしい建物を建てるのですから、当然に莫大な建築費がかかります。

 建築費を住民全員で負担するとしても、要するに新築マンションを買うようなものですので、何千万ものあらたな出費(場合によっては住宅ローンを組む必要があるでしょう)をしなければなりません。建替えには簡単に賛成できないのです。

 では今までの建替えはどうやって資金を賄っていたかというと、建物を今までよりも大きく建て替えて、新しくできた部屋(「余剰床」と言われています)を販売することで、従前からの区分所有者の立替費用を賄ったり、低く抑えたりしてきたのがほとんどです。

 これは、建物の建築条件(建ぺい率や容積率など)が竣工当時よりも緩和され、より高い建物、広い建物が建てられるマンションの建替えであることが前提条件になります。

 こうしたマンションであれば、従来の区分所有者は、究極的にはタダで新しいマンションに住み替えられるわけですから、住民はみんな建替えに賛成します。

 今までデベロッパーが行ってきた建替えはこうした比較的「イージー」な案件でした。

 しかし、建て替えても余剰床がほとんどない、あるいは全く無い、さらには耐震性能を確保するために部屋が今までより小さくなるといった「ハード」な案件は建替えがすすまずに残されてしまっているわけです。

敷地売却が出口になるかも

 今回、政府は敷地売却についても4分の3の賛成で可能とする方向で改正しようとしているようです。

 敷地売却は、従来、全員一致でないとできなかったことです。

 上記の建替資金の問題がクリアできないならば、危険な建物が存在することを解決するには、建物を取り壊して敷地を売却するしかありません。

 今回、政府が敷地売却の要件を緩和してきましたが、私はこちらが本命なのではないかと思います。

 さらに、不明者を賛否のカウントからはずすことも検討しているようですので、敷地売却はかなりやりやすくなる可能性があります(ただし、不明者については改正されない可能性もあるでしょう)。

 ご自身の所有するマンションの行く末を案じておられる方は、ぜひ法改正の動向を注目してください。


 この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

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