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払えなくなったら詐欺?簡単にはそう言えない法律の世界!あの森友裁判を弁護士が解説

2021-12-17

このコラムのまとめ

 森友学園が校舎の建築会社から訴えられた裁判の判決がありました。

 この裁判で建築会社は、森友学園側が詐欺(民法上の詐欺ではなく、不法行為としての詐欺)をしたと主張していました。

 森友学園側が私学助成金などで嘘をついていたことは認定されましたが、だからといって建築代金を払う気がなかったとまではいえないと裁判所は判断しました。

 嘘をついたのに詐欺じゃ無いのかと思われるかもしれませんが、他の事情を考えてみれば、森友学園側は最初はお金を払うつもりがあったという裁判所の判断は不自然とは言えないのでは。

払うって言ってたじゃないか!

 民法上の詐欺に厳密にあたるかどうかはともかく、「払う」という言葉を信じて契約したのですから、結局払えなくなったら「詐欺だ」と言いたくなる気持ちは分かります。

 大阪の学校法人から校舎の建築を請け負った会社が、請負代金を払わずに民事再生手続にはいった学校法人に対して、詐欺だとして訴えた事案があります(大阪地方裁判所平成29年(ワ)第11188号 令和3年8月24日第18民事部判決)。

 そうです。お察しの通り、ご存じ森友学園が工事業者に訴えられた事案です。

なぜ不法行為(詐欺)と言いたいのか

 ところで、民法上の詐欺(民96条)は、その契約を取り消す、という文脈で使われます。

 しかし、この事案では、原告は、詐欺=不法行為(民709条)であると主張しています。

 「だます」という意味では「詐欺」であり、不法行為であるとしても、これは契約を取り消すものではありません。その契約自体は存在し続けます。

 では、このような「不法行為としての詐欺を主張をするメリット」はどこにあるのでしょうか。

 例えば、債務者が破産した場合、債権者は案分で配当を受ける権利しかありません。

 しかし、悪意で加えた不法行為の場合は、非免責債権となります。

 非免責債権であれば、破産手続を経ても逃れられないことになります。

 この事案では学校法人は民事再生をしているのですが、民事再生でも、悪意で加えた不法行為は非減免債権とされています(民事再生法第229条第3項)。

 そして、この事案において管財人は、20万円を超える部分については免除率97パーセントという再生計画案を提示していました。つまり、支払われなかった債務のほとんどが弁済されないのです。

 おそらく、この事案でも、原告である債権者は非減免債権となることを目的としていたと考えられます。

嘘は認定されてる

 この事案で、「悪意で加えた不法行為」(=詐欺)といえるために、原告は、以下のように主張していました。

 すなわち、学校法人の理事長であった被告Aらにおいて、学校法人には、「当時、上記請負契約の報酬を支払う能力がなく、同報酬を支払う意思もないのに、これがあるかのように装い、原告を欺罔して上記請負契約を締結させたことが詐欺に当たる」と原告は主張していました。

 特に、、被告A(学校法人の前理事長)が「「工事代金の半分は私学助成金で支払う」等と実際には存在しない私学助成金が支給される旨の虚偽の事実を告げるなどして原告を欺罔した」との主張について、これ自体は裁判所でも認定されています。

 ただし、工事代金の半分は架空の私学助成金で支払う旨を告げた事実は認められるが、資金の調達方法を偽ったにとどまり、請負報酬を支払う意思も能力もなかったものと認めるには足らないとして、被告Aの欺罔行為も詐欺の故意も認められないと判断されました。

 裁判所は、①相当程度の寄付金があるとの見込みは合理的であること、②長年幼稚園を経営してきたこと、③夢であった小学校開設に向けて、元首相夫人を名誉校長にするなどの話題作りも行ったこと、④経営破綻したのは土地の売買代金の廉価性などが報道されて社会問題と化したことが原因であること、などのいくつもの事情を考慮して、丁寧に認定しています。

最終的にはお金は払う気があった?

 この判断に、「嘘ついて金借りたのに詐欺じゃ無いなんておかしい!」と思われる方もいるでしょう。

 たしかに、やりとりの中で嘘を交えていることはたしかのようです。

 しかし、学校法人の理事長が、「お金を払う気も無いのに学校を建てさせた」というストーリーは、不自然では無いでしょうか

 まず、学校法人には、お金が払えなくなって破綻するという未来は予測しておらず、期待してもいなかったものです。

 そして、学校法人は、建てた学校を使うつもりであり、当然そのためにはお金は払うつもりだったはずです。そうでないと学校法人に建物を建てるメリットが考えにくいのです

 こうした一般常識に基づく推論をベースにした場合(弁護士はこうした考えを「スジ」と言ったりします)、報酬を払う意思がないのに嘘をついたとまでは認定できないという裁判所の判断は妥当にみえてきます。


 この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

サブリース契約の闇!不正融資事件に裁判所はどう判断するのか?弁護士が解説!

2021-11-19

1 かぼちゃの馬車事件

 数年前まで、TVCMを流すほど、長期の家賃保証を謳うサブリース会社が隆盛を誇りました。

 これは、金融緩和による金余り、相続税対策としてのアパート建設など、いくつかの追い風が作り出した(今思えば)一過性のブームでした。

 その後、こうしたサブリース事業は、収益性が悪化していきます。

 そして、世間の注目を浴びる事件が発生しました。

 登場人物は、シェアハウス「かぼちゃの馬車」(これを展開していたのはスマートデイズ社)およびこれに絡んで多額の融資を実行したスルガ銀行でした。

 かぼちゃの馬車事件は、スマートデイズ社がサブリース契約を行い、30年家賃保証、年間8%の利回り保証などを謳ってたくさんの投資家と契約していたところ、2018年ころには経営が行き詰まりました。

 スマートデイズ社との契約において、スルガ銀行から融資を受けて購入していた買主が多かったところ、ずさんな不正融資や実際の不動産価値に合わない高額の取引が多数行われていました。

 このような不適切な融資の数々は,世間からの批判を浴び,やがてスルガ銀行自体の経営を揺るがすものとなりました。

 2019年,かぼちゃの馬車事件の被害弁護団が,東京地裁にスルガ銀行との和解を求める調停を申し立てました。

 2020年、スルガ銀行は、被害弁護団との間で、融資対象不動産をスルガ銀行に譲渡することを条件に、債務と相殺する、いわゆる帳消しをすることで解決しました。

 なお、かぼちゃの馬車事件やレオパレス等の長期保証を謳ったサブリース会社の経営悪化による当初約束の反故が相次いだため、「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律」が新設され、2021年6月から施行されました。

2 調停では無く,裁判で勝てるのか

 本件も、いわゆる家賃補償や価値の誤認によって不利益な契約を締結したと主張する買主兼借主が、不動産販売業者と銀行を訴えた事案です(令和2年7月17日 東京地裁平成30年(ワ)第36605号事件)。

 状況としては,上記かぼちゃの馬車事件と極めて似ています。

 この裁判例で、原告は、売主が価値を偽って詐欺した、スルガ銀行には信義則上返還義務を負わない,などと主張していました。

 上記のかぼちゃの馬車事件では調停による解決でしたが,こちらは裁判です。

 調停は,必ずしも法的な主張を立証しなくても,中間的な解決をはかることが可能です(あくまで合意すれば,ですが)。

 しかし,裁判となりますと,訴えた側(原告と言います)が法律の要件に合致する事実を主張し立証できて,はじめて判決で勝つことができます。

 結論から言うと,この裁判の判決では、原告の主張は概ねすべて斥けられました(裁判は借主が負けた,と言うことです)。

 調停による解決とは,正反対の帰結ですね。

 以下,詳しく見ていきましょう。

3 家賃保証を立証することが難しかった

 この裁判では,33年に及ぶ家賃保証をしたことを立証できるか,が一番の問題でした。

 この点について,裁判所は,家賃保証について書面で約束した契約書はなく,説明資料に書かれた収入もシミュレーションであって保証では無いと判断しました。

 なお,はじめの一年だけは家賃保証する合意があったことは,被告も認めています。

 以下,その部分の判決文を引用します。

 「原告は,被告P3が借入金の返済は本件不動産の賃料収入によって賄えるし仮に賄えなければ被告JCが不足分を補填すると偽った旨主張し,これに沿う供述をする一方(甲25,原告本人),被告P3は不足分の補填を約束したのは1年間に限る旨供述する(乙A10,被告P3本人)。前記認定事実によれば,被告JCが原告に示したキャッシュフロー書面は「シュミレーション」を示したものであり,そこに記載されている本件不動産の家賃収入の額はあくまで満室を想定したものであること,被告JCが約1年間不足分の家賃補填を行っていたがその後は行っていないこと,本件家賃保証覚書は原告が関与して作成されたものではないことが認められ,その他全証拠を精査しても,被告JCが家賃収入によって借入金の返済額を賄えることを約束したことや不足分につき無期限での補填を約束したことを裏付ける客観的な証拠は存しないことから,原告の上記主張は採用することができない(そもそも,上記キャッシュフロー書面では借入期間が33年間とされているが,そのような長期間にわたって借入金の返済不足分を全て補填するという重要な効果を生ずる合意が口頭により成立するというようなことは容易に想定しがたい。)」(傍線部は筆者)

 ポイントは,「33年もの長期に及ぶ家賃の保証(不足分の填補)という重大なことを,口頭で合意するなど普通はありえない」という判断です。

 なるほど、「建築さえすれば必ず満室分の家賃保証をします」なんて,一般的には、そんなうまい話があるわけがないですし「書面も無く長期の家賃保証などしない」というのは常識的な考えでしょう。

 なお、売主が審査時スルガ銀行に家賃保証する旨を記した覚書を差し入れていますが、これは売主が勝手に作成したものであって買主は作成に関与していないものだったようです。

 一方で、買主としては、証拠には残っていないとしても、少なくとも家賃保証を匂わされたという認識でしょうから、売主が家賃保証に関して書類を銀行に対しては作成していたのに、売主とは合意していないから、その家賃保証覚書は関係ない,という裁判所の判断はやや厳しいかなと思いました。

4 不動産投資は自己責任が原則

 そもそも,不動産投資は難しい取引です。

 今でこそサラリーマン大家さんなど副業としての大家さんも増えました。

 しかし,不動産投資はそもそも投資額が高く,回収に長期間を要するものですので,短期的な取引よりも難易度が格段に上がります。

 ちょっと勧められたからやってみる,という種類の取引ではないのです。

 そして,投資のリターンを得る者は,そのリスクも自分で引き受けることが求められます。いわゆる自己責任原則です。

 上記裁判例における裁判所の判断にも、「投資を行う者は、その価値を自分で判断して取引し,自らその責任を負う」という自己責任原則が、色濃く影響していると感じます。

 ですので,スルガ銀行と被害弁護団との和解内容は,かなり異例のものです(スルガ銀行の落ち度が相当程度あったからこそです)。

 不動産取引での損失について,いつでも救済されるわけではありませんので十分にご注意ください。

 

 そこで、譲渡する会社との契約関係を基礎として、譲り受ける会社の株主の保護のための一定の規制を付与した株式交付制度が新設されました。これによって、現物出資規制を受けることなく、他の会社の株式の一部を取得できるようになりました(改正法2条32の2号、774条の3以降)。


 この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

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