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令和元年会社法改正を弁護士が解説!取締役の賠償責任保険に特に注意!

2021-12-24

このコラムのまとめ

 令和元年会社法改正が2021年3月に施行されました。

 これらの改正は、主に公開会社など比較的規模の大きな会社が対象となる規律が多いです。

 一方、取締役の補償契約および賠償責任保険契約についての改正は、中小企業にも大きな意味があります。注意して対応しましょう。

1 令和元年会社法改正は、2021年3月に施行!

 令和元年会社法改正は、大部分が令和3年3月1日に施行されました。

 主な内容は、監査役設置会社における社外取締役の選任義務など、1.取締役とコーポレートガバナンスに関連する改正が主となっています。

 また、2.日本企業の成長を促す政策の一環として、株主総会の運営に関する見直しが

されました。

 さらに、3.社債管理補助者制度、4.株式交付制度が新設されました。

 これらの改正は、主に公開会社など比較的規模の大きな会社が対象となる規律が多いです。

 一方、取締役の補償契約および賠償責任保険契約についての改正は、中小企業でも注意が必要です。

 以下、各改正内容を解説していきましょう。

2 取締役とコーポレートガバナンス関係の改正

 取締役とコーポレートガバナンス関係の改正としては、以下の改正が行われました。

  •  (1)取締役の報酬等に関する規律の見直し
  •  (2)補償契約および役員等賠償責任保険契約に関する見直し
  •  (3)社外取締役に関する規律の見直し

(1)取締役の報酬等に関する規律の見直し

 従来から、取締役の報酬については、不当に高額な報酬を防ぐ(いわゆるお手盛り禁止)趣旨での規制がありましたが、一方で、適切に報酬設定することでより取締役が働く動機付けをする(インセンティブ)必要があります。

 そこで、以下のような改正が行われました。

 ・一定の範囲の株式会社に対する報酬等の決定方針の決定の義務づけ

 ・株式報酬等に関する制度整備

 ・報酬に関する情報開示の充実

 ア 一定の範囲の株式会社に対する報酬等の決定方針の決定の義務づけ

 対象は、株式会社のうち、①監査役会設置会社(公開会社でありかつ大会社に限る。)であって、有価証券報告書の提出義務がある会社か、②監査等委員会設置会社(改正法361条7項2号)に限定されています(改正法361条7項、施行規則98条の5)。

 報酬等の決定方針は、取締役会が決定します(改正法361条7項)。

 イ 株式報酬等に関する制度整備

 適正なインセンティブを与えるため、株式報酬の制度の活用が求められるところ、そのネックとなっていた制度の整備を行いました。

 ①取締役の報酬として株式を与える場合に定める定款または株主総会決議の具体的内容を、株式数の上限等と明示しました(改正法361条1項3号)。

 また、②上場会社が報酬として株式を発行・処分する場合に、払込を要さず、有利発行規制を適用しない(改正法202条の2)とされました。

 いずれも、従来の不安定な点や不便な点を解消して、株式報酬を使いやすくするものです。

 ウ 報酬に関する情報開示の充実

 透明性を確保するため、公開会社の事業報告において情報開示を拡充する改正がされました(改正施行規則121条4号、5号の2ないし6号の3)。

(2)補償契約・役員等賠償責任保険契約に関する規律の整備

  補償契約や役員等賠償責任保険契約(一般に「D&O保険」と言われています)は、役員に活動への安心をもたらす一方で、失敗しても自らは責任を負わないという意味では会社の利益を害するおそれがある面があります。

 そこで、①補償契約については、株主総会(取締役会)の決議が必要とされました(改正法430条の2第1項)。

 また、補償の範囲が限定されました(430条の2第2項ないし5項)。

 その他、開示に関する規定などが整備されました。

 ②役員等賠償責任保険契約についても、同様に株主総会(取締役会)の決議によるべきこととされました(改正法430条の3第1項)。

 その他、開示に関する規定が整備されました。

 決議が必要になるのは、従来から契約しているD&O保険を更新する際も同様ですので、注意が必要です。改正法が施行される2021年3月1日以降に更新されるものについては決議を忘れないようにしましょう。

(3)社外取締役に関する規律の見直し

 ①監査役会設置会社(公開会社かつ大会社に限る)であって有価証券報告書の提出義務がある会社は、社外取締役の設置が義務づけられました(改正法327条の2)。

 ②社外取締役に対して、一定の場合に会社は業務執行を委託することができるとされました(改正法348条の2第1項・2項)。これは、取締役が業務を施行した場合に社外取締役の要件を満たさなくなる(法2条15号イ)ところ、一定の場合には社外取締役が業務執行することが望ましい場合があり、これを回避するためのものです。

3 株主総会の運営についての改正

 ①株主総会資料の電子提供制度が導入されました。振替株式を発行する会社は電子提供制度の利用が義務づけられました。この改正は、2022年中に施行される予定です。

 ②また、株主提案権につき、提案できる議案の数を制限しました(改正法305条4項)。濫用的な提案を防止するためです。

4 社債管理補助者制度

 会社が募集社債を発行する場合、原則として、社債管理者を設置しなければなりません(法702条)。

 しかし、社債管理者の設置コスト等から、実際には例外規定によって管理者を設置せずに発行されることが多かったようです。

 今般、社債のデフォルトが発生し、管理者の不在によって社債権者の保護に欠けることが懸念されました。

 そこで、社債管理者ほどの保護ではないものの、社債権者による社債管理を補助するための制度として補助者制度が設置されました。補助者になれる者として、従来の社債管理者の資格者以外に、弁護士や弁護士法人もあらたに認められました。

5 株式交付制度

 従来の株式交換では、完全親子会社にしか慣れず、他の会社の株式の一部だけを取得できませんでした。

 また、株式の譲渡を受けた場合、その対価として株式を支払った場合には、現物出資規制を受けてしまいます。

 そこで、譲渡する会社との契約関係を基礎として、譲り受ける会社の株主の保護のための一定の規制を付与した株式交付制度が新設されました。これによって、現物出資規制を受けることなく、他の会社の株式の一部を取得できるようになりました(改正法2条32の2号、774条の3以降)。


 この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

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