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管理組合が間違った契約しちゃった?消費者として取り消しできる?!弁護士が解説

2022-09-30

このコラムのまとめ

  • 管理組合は,以前から住民によって運営されてきたため,専門性の高い契約に関して知識が少ない事が多い。
  • 管理組合は実態としては素人であっても,消費者には当たらないという裁判例あり。
  • 分からないことは専門家(マンション管理士や弁護士)に相談してから行うべき。

管理組合は住民が運営

 マンションの管理組合は,区分所有者である住民によって組織されます。

 そして,管理組合の運営は選ばれた理事によってされます。理事は基本的に区分所有者のなかから選ばれます。

 第三者管理以外では,理事会で管理組合の様々な契約の内容を検討したり,組合に諮って契約を締結したりします。大変なご苦労ですよね。

 管理組合の理事は単にそのマンションの住民というだけですので,マンションの管理について詳しい人もいるでしょうが,ほとんどの場合,はじめはみなさん素人でしょう(理事として経験を積まれて,みなさん詳しくなっていかれます)。

 大規模修繕工事の請負工事契約や,電気の受給契約,ネット環境の一括契約など,マンション管理にかかわる様々な専門的な契約が理事の方の前に現れてきます。その当否を判断することは簡単ではありません。

 ましてや,管理組合の理事は他にお仕事をされていることが多く,仕事終わりや休日に集まって検討するなど厳しい状況の中で尽力されています。

 そんな管理組合が,間違った契約を結んで損をしてしまった場合,実質的に決定した理事達は素人なのだから,消費者契約法で取り消したり,無効になったりしないのでしょうか。

消費者契約法による取り消しや無効

 消費者契約法とは,素人である消費者が,プロである業者と知識量や経験の差によって不利益を被る場合に,契約を取り消したり,不利益な約束を無効にしたりできる法律です(消費者契約法1条)。

 例えば,重要な事項について事実と異なることを告げて契約したり(第4条1項1号),消費者にとって不利益な事実を告げなかったために誤認したり(同条2項),そうした場合に契約を取り消すことができるとしています。

 また,事業者に対する損害賠償請求権を免除させるような不利益な条項などは無効となります(8条各号)。

 管理組合も,大規模で専門的な契約について,よく分からずに契約してしまって不利益を被った場合,消費者契約法の適用を受けて契約を取り消したり無効に出来ないでしょうか

管理組合は消費者か

 そもそも消費者契約法の適用を受けるのは,消費者だけです。

 消費者とは何かにつき,消費者契約法に明確に定義があります。

 消費者契約法2条1項には,「「消費者」とは、個人(事業として又は事業のために契約の当事者となる場合におけるものを除く。)をいう。」と明確に規定されています。

 そうです。消費者とは個人であると明確に規定されていて,団体である管理組合は消費者には当たらないのです(東京地裁判決平成22年11月9日)。

 管理組合がマンション住民という個人の利益を守る為に存在する団体であり,理事も「素人」から選任されているとしても,団体である管理組合には消費者契約法は適用されないこととなります(消費者契約法逐条解説も同様)。

マンションの専門家への事前相談が重要

 結論として,管理組合は消費者にあたらないので,消費者契約法によって契約を取り消したり無効にしたりはできません。

 しかし,管理組合の理事が(少なくとも始めは)素人であることは否めません。

 そのため,重要で大規模な契約を行う場合には,前もってその内容の妥当性をマンション管理の専門家(弁護士やマンション管理士など)に相談するのが重要です。転ばぬ先の杖として,ぜひマンション管理の専門家をご活用ください!


この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

急にピアノが弾けない!細則の変更でも「特別の影響」で承認が必要か?弁護士が解説

2022-04-08

このコラムのまとめ

  • マンションの規約の設定変更等には,区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会決議が必要。
  • また,その変更等によって特別の影響を受ける区分所有者の承諾も必要になる。
  • 特別の影響を受けるかどうかは,マンションごとの事情を丁寧に検討する必要がある。

急にピアノを弾いてはいけなくなった

 マンションでは,様々な方が住んでいます。

 中には,ピアノが弾きたくて入居した方もいるでしょう。

 今まで認められていたピアノの演奏が,夜8時以降は禁止されてしまったら、当然ですがとても困った状況になります。

 マンションで突然そのようなルールが出来た場合,ピアニストとしては何か反論できるでしょうか。

規約変更による「特別の影響」

 マンションの規約を設定,変更等する場合,区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会決議が必要です(区分31①)。

 4分の3以上の賛成というのはそもそも大きなハードルです。

 さらに,31条1項後段は,その規約変更等が「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべき時は,その承諾を得なければならない。」とされています。

 つまり、規約変更等には,特別の影響を受ける区分所有者の承諾まで必要なのです

 どういう場合に「特別の影響」があると言えるのでしょうか。裁判所では,「規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該区分所有関係の実態に照らして,その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」とされています。

 まとめると,特別の影響はないとして規約変更等が有効となる要件は,①規約を変更等する必要性があること,②規約の変更に合理性があること,③変更等による不利益が受忍限度内であること,であるといえます。

 反対に,上記①から③の一つでも満たさない場合には,特別の影響を受ける者の承諾が必要です。

規約の変更ではなく,使用細則の設定・変更ならどうか?

 ところで,ピアノの演奏に関する規制などは、通常,管理規約自体では無く,その下位規範といえる「使用細則」にて規定されることが多いでしょう。

 通常,使用細則の設定・変更については,総会の過半数で決議されています。

 使用細則の設定・変更の場合,規約自体ではないため,上記の区分31条1項の適用は無く,過半数で決められるし,特別の影響を受ける者の承諾も不要であるようにも思われます。

 この点,楽器の演奏時間を夜8時までとする細則を過半数決議かつ承諾無しで行ったことの有効性が争われた東京地裁令和2年6月2日判決(以下「本件判決」といいます。)では,以下のように判断しました。

 まず,細則における楽器の演奏禁止の条項設定は,必ずしも規約で行うことが法律上求められていません。そのため,細則で演奏禁止を設定したこと,これを過半数決議で行ったことは,区分31条1項前段に違反しないとしました。

 一般的に,楽器の演奏時間の制限などは使用細則で設定されることが多く,この点では常識的な判断といえましょう。

 では,使用細則の設定は規約の変更等ではないのだから,特別の影響を受ける者の承諾も不要でしょうか。

 この点では,裁判所は,たとえ使用細則であったとしても,区分31条1項後段を類推適用して,利害の調査性を図るべきだと判断しました(最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決・ 民集52巻7号1604頁参照)。

特別の影響があったか

 特別の影響があるかどうかは,個々の事案によって異なってきます。

 まず,ルールを設定する必要性は,マンションごとに違うでしょう。一般的に,騒音を生じかねない楽器の演奏時間についてなんらかの制限を設けることは,必要性が認められやすいでしょう。

 次にルールの合理性ですが,一般的な演奏時間を十分確保したものであれば,合理的であると認められる場合もあるでしょう。

 しかし,この点こそまさにマンションごとに千差万別なのです。

 本件判決では,マンション自体がコーポラティブマンション(入居者が組合を作って,自分たちの要望に添ったマンションを建築するもの)であり,遮音性や防音性能にこだわって,演奏が自由に出来ることを前提に設計施工されたものでした。そうした事情から,竣工当初から楽器の演奏が容認されていました。また,竣工後も,騒音の苦情がでるたびに多額の費用をかけて追加の防音工事を行っていました。

 また,夜8時までの演奏とすると,一般的な社会人は家に帰るまでに8時を過ぎることもあるでしょうから,必ずしも演奏する人に配慮した時間設定とは言えません。

 そもそも,音量について考慮すること無く一律に演奏を禁止する内容でもあります。

 こうしたことから,本件判決では,使用細則を設定した総会決議の合理性が否定されました。

 さらに,本件判決では,原告がプロのピアニストであったこと,さらに趣味のフルートでもレッスンを受けていたこと,当初は自由に演奏できていたこと,防音工事に多額の費用をかけたこと,などを指摘して,演奏を制限されることの不利益が大きいと判断しました。

 結論として,本件判決では,「特別の影響を及ぼすべきとき」にあたるとし,原告の承認を得ていない総会決議は無効であるとしました。

個別のマンションごとに検討することが重要

 本件判決では,コーポラティブマンションであったこと,当初から自由に演奏できたこと,プロのピアニストであったことなど,様々な特別な事情がありました。なので,「演奏禁止の使用細則の設定がいつでも特別の影響を及ぼすべきとき」にあたる」というわけではありません。

 特別の影響を受けるかどうかは,マンションの個別事情,ルールの規定ぶりなど具体的な事実を検討して判断する必要があります


この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

重要事項説明が無ければ特約は無効?それとも有効?弁護士が解説

2022-01-07

このコラムのまとめ

 重要事項説明が無いと、特約など契約内容が無効になるのでしょうか。

 賃貸借契約の有効性は、主に契約書の内容などによって判断され、仮に重要事項説明が欠けていても、直ちに賃貸借契約の内容が無効にはなりません

 あくまで契約書をチェックする努力が重要です。

重要事項説明って・・・無いとどうなる?

 家を借りる時、仲介の不動産屋さんで契約内容の説明を受けますよね。

 これは、宅地建物取引士による重要事項説明という手続です(宅建業法35条)。

 宅地建物取引士は、一定の事項(宅建業法35条1項各号、ただしこれに限定されない)を契約時に説明する義務があります。

 これに違反した場合、宅建業者に対する損害賠償請求などが考えられます。

重要事項説明が欠ければ、賃貸借契約が無効になるの?

 一方で、重要事項説明がなければ、不動産の賃貸借契約や売買契約が成立しないのでしょうか。

 この点について判断した、東京地方裁判所令和2年9月23日判決を見てみましょう。

 この事件は、貸主が退去時のクリーニング特約に基づいて元借主にクリーニング代を請求したところ、元借主が、特約が宅建業者によって説明されていなかったので無効だと主張した事件です。

そもそもクリーニングはしなきゃダメなの?

 まず前提として、退去時のクリーニングは、いわゆる通常損耗にあたり、本来は借主が原状回復する義務はありません。

 そのため、賃貸借契約において、特約として、借主が退去時のクリーニングをすべきことが定められることが多いです。特約としてきちんと合意されていれば、基本的に有効です。

 しかし、本件では、契約が郵送で行われたため、宅建業者による重要事項説明が(特約に限らず全て)行われなかった可能性が高いと裁判所が認定していました。

 この場合に、クリーニング特約は有効なのでしょうか。

特約が合意になる条件

 この点、特約として有効かどうかは、明確に合意しているかどうかにかかっています。

 詳しく言うと、裁判所は以下のように判示しています。

「少なくとも,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているか,仮に賃貸借契約書では明らかでない場合には,賃貸人が口頭により説明し,賃借人がその旨を明確に認識し,それを合意の内容としたものと認められるなど,その旨の特約が明確に合意されていることが必要であると解するのが相当である。」

(最高裁平成17年12月16日第二小法廷判決・裁判集民事218号1239ページ参照)

 そして、裁判所は、以下のように説明して、本件では特約は明確に合意されていると判断しました

 「これを本件についてみるに,本件契約書においては,特約事項として,入居の期間,契約終了理由,貸室の汚損の程度及び汚損の原因の如何にかかわらず,貸室及び附属部分のハウスクリーニング費用(床,壁,天井,建具,水廻り及び設備機器等の清掃費用を含む。),並びにエアコンのクリーニング費用を,原告が全額負担することが明記されている。そして,その算出方法として,ハウスクリーニング費用については,貸室面積35平方メートル未満の場合には一律3万5000円(税別),貸室面積35平方メートル以上の場合には,貸室面積(単位:平方メートル 小数点以下四捨五入)×1000円(税別)となること,エアコンのクリーニング費用については,壁掛けエアコン1台あたり金10000円(税別)となることが,それぞれ明記されており,いずれの算出方法及び額も,一義的かつ明確である。

 そうすると,本件においては,賃借人が補修費用を負担することになる通常損耗の範囲が賃貸借契約書の条項自体に具体的に明記されているといえ,その旨の特約が明確に合意されていると認められる。」

(東京地方裁判所令和2年9月23日判決)

 まとめると、ハウスクリーニングとエアコンクリーニングについては、その範囲が明確に規定され、賃借人の負担とされていたこと、費用も計算が明確に可能なように規定されており明確であったことを理由として、この契約書に調印した賃借人は明確に特約に合意していたと認定しました。

重要事項説明が無ければ特約は無効?

 では、重要事項説明が無かったことが、特約を無効にするでしょうか

 裁判所は、重要事項説明が無かったからと言って、直ちに特約の明確な合意が無かったことにはならないと指摘しました。

 そして、契約書において、特約が一義的に明確な内容で規定され、わざわざ枠で囲って見やすくしており、郵送でこれを受け取った賃借人は十分な時間をかけてチェックできたはずであるとして、特約は依然として有効であると判断しました。

 つまり、重要事項説明が欠けていても、契約内容が直ちに無効にはならない、ということです。

 重要事項説明が無いのは言語道断ですが、重要事項説明に頼り切ってはいけません。自分で契約内容を確認する努力が大事ですね。

 自分では契約書の内容がよく分からないこともあると思います。その時は、弁護士など法律の専門家に相談してみましょう。

 転ばぬ先の杖ですね。


この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

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