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急にピアノが弾けない!細則の変更でも「特別の影響」で承認が必要か?弁護士が解説

2022-04-08

このコラムのまとめ

  • マンションの規約の設定変更等には,区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会決議が必要。
  • また,その変更等によって特別の影響を受ける区分所有者の承諾も必要になる。
  • 特別の影響を受けるかどうかは,マンションごとの事情を丁寧に検討する必要がある。

急にピアノを弾いてはいけなくなった

 マンションでは,様々な方が住んでいます。

 中には,ピアノが弾きたくて入居した方もいるでしょう。

 今まで認められていたピアノの演奏が,夜8時以降は禁止されてしまったら、当然ですがとても困った状況になります。

 マンションで突然そのようなルールが出来た場合,ピアニストとしては何か反論できるでしょうか。

規約変更による「特別の影響」

 マンションの規約を設定,変更等する場合,区分所有者および議決権の各4分の3以上の多数による集会決議が必要です(区分31①)。

 4分の3以上の賛成というのはそもそも大きなハードルです。

 さらに,31条1項後段は,その規約変更等が「一部の区分所有者の権利に特別の影響を及ぼすべき時は,その承諾を得なければならない。」とされています。

 つまり、規約変更等には,特別の影響を受ける区分所有者の承諾まで必要なのです

 どういう場合に「特別の影響」があると言えるのでしょうか。裁判所では,「規約の設定,変更等の必要性及び合理性とこれによって一部の区分所有者が受ける不利益とを比較衡量し,当該区分所有関係の実態に照らして,その不利益が区分所有者の受忍すべき限度を超えると認められる場合をいう」とされています。

 まとめると,特別の影響はないとして規約変更等が有効となる要件は,①規約を変更等する必要性があること,②規約の変更に合理性があること,③変更等による不利益が受忍限度内であること,であるといえます。

 反対に,上記①から③の一つでも満たさない場合には,特別の影響を受ける者の承諾が必要です。

規約の変更ではなく,使用細則の設定・変更ならどうか?

 ところで,ピアノの演奏に関する規制などは、通常,管理規約自体では無く,その下位規範といえる「使用細則」にて規定されることが多いでしょう。

 通常,使用細則の設定・変更については,総会の過半数で決議されています。

 使用細則の設定・変更の場合,規約自体ではないため,上記の区分31条1項の適用は無く,過半数で決められるし,特別の影響を受ける者の承諾も不要であるようにも思われます。

 この点,楽器の演奏時間を夜8時までとする細則を過半数決議かつ承諾無しで行ったことの有効性が争われた東京地裁令和2年6月2日判決(以下「本件判決」といいます。)では,以下のように判断しました。

 まず,細則における楽器の演奏禁止の条項設定は,必ずしも規約で行うことが法律上求められていません。そのため,細則で演奏禁止を設定したこと,これを過半数決議で行ったことは,区分31条1項前段に違反しないとしました。

 一般的に,楽器の演奏時間の制限などは使用細則で設定されることが多く,この点では常識的な判断といえましょう。

 では,使用細則の設定は規約の変更等ではないのだから,特別の影響を受ける者の承諾も不要でしょうか。

 この点では,裁判所は,たとえ使用細則であったとしても,区分31条1項後段を類推適用して,利害の調査性を図るべきだと判断しました(最高裁平成10年10月30日第二小法廷判決・ 民集52巻7号1604頁参照)。

特別の影響があったか

 特別の影響があるかどうかは,個々の事案によって異なってきます。

 まず,ルールを設定する必要性は,マンションごとに違うでしょう。一般的に,騒音を生じかねない楽器の演奏時間についてなんらかの制限を設けることは,必要性が認められやすいでしょう。

 次にルールの合理性ですが,一般的な演奏時間を十分確保したものであれば,合理的であると認められる場合もあるでしょう。

 しかし,この点こそまさにマンションごとに千差万別なのです。

 本件判決では,マンション自体がコーポラティブマンション(入居者が組合を作って,自分たちの要望に添ったマンションを建築するもの)であり,遮音性や防音性能にこだわって,演奏が自由に出来ることを前提に設計施工されたものでした。そうした事情から,竣工当初から楽器の演奏が容認されていました。また,竣工後も,騒音の苦情がでるたびに多額の費用をかけて追加の防音工事を行っていました。

 また,夜8時までの演奏とすると,一般的な社会人は家に帰るまでに8時を過ぎることもあるでしょうから,必ずしも演奏する人に配慮した時間設定とは言えません。

 そもそも,音量について考慮すること無く一律に演奏を禁止する内容でもあります。

 こうしたことから,本件判決では,使用細則を設定した総会決議の合理性が否定されました。

 さらに,本件判決では,原告がプロのピアニストであったこと,さらに趣味のフルートでもレッスンを受けていたこと,当初は自由に演奏できていたこと,防音工事に多額の費用をかけたこと,などを指摘して,演奏を制限されることの不利益が大きいと判断しました。

 結論として,本件判決では,「特別の影響を及ぼすべきとき」にあたるとし,原告の承認を得ていない総会決議は無効であるとしました。

個別のマンションごとに検討することが重要

 本件判決では,コーポラティブマンションであったこと,当初から自由に演奏できたこと,プロのピアニストであったことなど,様々な特別な事情がありました。なので,「演奏禁止の使用細則の設定がいつでも特別の影響を及ぼすべきとき」にあたる」というわけではありません。

 特別の影響を受けるかどうかは,マンションの個別事情,ルールの規定ぶりなど具体的な事実を検討して判断する必要があります


この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

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