工事業者が破産した!工事完了していないのに報酬を支払う必要があるの?違約金で相殺できないか?弁護士が解説

工事業者が破産した!工事完了していないのに報酬を支払う必要があるの?違約金で相殺できないか?弁護士が解説

このコラムのまとめ

  • 請負工事の契約は、仕事が未完成であれば代金を払う必要は無い。
  • 複数の請負契約のうち、完成した工事と未完成の工事がある場合、破産管財人から完成した工事の代金を請求されても、「前に生じた原因」であれば、未完成の請負契約に規定していた違約金債権と相殺することができる。
  • ただし、全く無関係の契約でも相殺できるのかは疑義が残る。

工事が業者の破産でストップしたら

 あなたが自宅の新築工事を工事業者にお願いしていたとしましょう。

 ある程度までは工事が進んだのですが、その家が完成する前に、工事業者が破産してしまいました。

 この場合、当然ですがとても困った状況になります。

 ひとつには、単純に工事が未完成のままになってしまう、家ができあがらないという問題ですね。

 もう一つは、工事代金を支払う必要があるかという問題です。

工事が未完成なら工事代金は払わなくてよい

 まず、こうした建築工事は請負契約ですが、請負契約は工事が完成して引渡しをしないと報酬債権が発生しません(民632,633,624①)。

 なので、未完成であれば、工事代金は払わなくてよいのです。

未完成の工事の違約金で、完成済の工事代金と相殺できる?

 また、例えばあなたが分譲業者で複数の建物の建築工事を発注していた場合、例えば4つの新築工事を発注していたけれど、一つしか工事が完成していない状況で工事業者が破産したとします。

 その場合、基本的には、4つの請負契約があることになります。

 そのうち一つは完成しているので、工事代金を支払う必要があります。

 そして、ほかの3つの契約については工事が完成していないので、代金は支払い不要です。

 さて、上記の場合に、破産した工事業者の破産管財人から、あなたは完成した工事の代金を請求されたとしましょう。

 これは支払わざるを得ません。

 一方で、未完成の工事の請負契約に、仕事が完成しなかった場合の違約金が規定されていたとしましょう。

 この場合に、未完成の工事の契約に基づく違約金と、完成した工事の代金とを相殺することはできるでしょうか

 このことが争われたのが、最高裁令和2年9月8日判決です。

破産法では、支払停止があったことを知る前に生じた原因なら相殺できる

 この事件は、相殺できるかという点に、破産法の規定が絡んできます。

 すなわち、破産法では、「支払の停止があったことを破産者に対して債務を負担する者が知った時より前に生じた原因」に基づく場合には、相殺が認められます(破産法72②(2))。

 単純に本件をみると、工事業者が支払停止(大雑把に言えば、支払や履行ができなくなって事実上活動がストップすることです)よりも前に、未完成で終わった工事契約は締結されていますので、「前に生じた原因」に基づくとして相殺できそうですね。

「前に生じた原因」と言えるには、請求を求められている債権と同じ契約から発生している必要があるのか?

 ところで、元々工事契約は4つありました。そのうち一つの契約分だけが完成して代金が発生しています。他は未完成の契約です。

 ここで、違約金債権は、この未完成の契約から発生しています。つまり、代金が発生している契約は(完成しているので当然)違約金は発生していませんね。

 このように、管財人が請求してきた代金債権の発生した請負契約と別の契約から発生した違約金債権であっても、「前に生じた原因」に基づくとして相殺ができるのでしょうか

 それとも、前に生じた原因」と言えるには、請求を求められている債権と同じ契約から発生している必要があるのでしょうか。

最高裁は、相殺を認めた

 素直に条文を読めば、相殺が同じ債権から発生している必要がある、などとは書いていません(民505①)。

 ところが、破産などの危急時には、相殺するのに牽連性(相殺に使う債権が同じ契約関係から生じていること)が必要とする学説が有力だったのです。この考え自体は、金融機関など相殺できる債権を予め用意できる強い立場の債権者によって先んじて債権回収が行われること、そのことによって一般の債権者が比べると不利益を被ることに対応したものであって、説得力のあるものです。

 裁判でも、一審判決は相殺を認めましたが、高裁判決は、同一の債権から生じていないので相殺の期待が合理的では無いとして「前に生じた原因」にあたらないと判断し、相殺を認めませんでした。

 最高裁はまず、以下のように過去の判例最高裁平成26年6月5日判決)を引用して、破産法72②(2)の「前に生じた原因」に該当する場合は「相殺の担保的機能に対するその者の期待は合理的」であって破産手続の趣旨に反しないと判断しました。

 そして、「各未完成契約に共通して定められている本件条項は」「破産会社が支払停止に陥った際には」違約金との相殺によって「一括して清算することを予定していたものと言うことができる」と認定し、「同一の請負契約に基づいて発生したものであるか否かにかかわらず、本件各違約金債権をもってする相殺の担保的機能に対して合理的な期待を有していた」とし、破産手続の趣旨に反するものでは無いと判示しました。

 つまり、別の債権から発生していても、相殺は可能なのです。

相殺の原則に立ち返れば、相殺に制限は無い

 元々、条文には、同一の契約から生じなければならないという規定はありません。

 ですから、相殺の原則に立ち返れば、危急時であっても相殺に牽連性という制限は無いはずです。

 その点では、最高裁は条文を素直に適用してものといえます。

 とはいえ、最高裁も、複数の契約だが一括しての処理を予定していたと認定していますので、全く無関係の契約でも同じように相殺ができるのかはやや疑問が残ります

 つまり、全く無関係の契約から生じた違約金債権による相殺は、相殺権濫用として認められない可能性もあるでしょう。


この記事は、掲載時点の法律関係を前提として記載されています。法改正などにより、解釈適用に変更が生じる可能性がありますのでご注意ください。

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